御幸と私は廊下に突っ立ったままだった。

「あーその、わりい。」

御幸が首に手を当てて、バツが悪そうに謝るからああそっか、と思った。あの時あんな事してなければ私はこんな気持ちにはなってなかったんだなと。出会った瞬間に戻れるのなら、全てを塗り替えてあの時に告白なんてしないで、きっともっとうまくやるはずだ。そうしたらもっと違う道もあったのだろうか。でも不思議と思っていたより冷静でいて、泣き出すとかあそういう気持ちではなく、ただ道で転んで鞄の中身をばらまいてしまったような感覚だった。それを拾う私を彼がじっと見ているだけみたいな、惨めな焦燥感だけ。
私は気付けば少しも震えていない声で

「大丈夫、分かってた。」

と嘘をついた。まるで用意していたみたいに口が勝手にそう喋っていた。自分が自分でないように笑顔でごめんねと付け足す。

「あのさ。」
「うん。」
「俺、多分さ。お前のこと好きだわ。」

じゃあと言って御幸はそのまま背を向けて歩いて行った。私は何も言えずにその背中を見るだけだった。やけに静かな廊下はいつもより広くて、御幸の言葉はその無機質な壁に溶け込んでいって、もうどこにも見えなくなっていた。

中学の頃関わりもなく、下の名前も知らなかったのにどうしてだろう、彼を好きになっていた。いつだって私の話す事はあんまりきいていなくて、掴みどころがない。かと思えばどうだっていいことを覚えてたり、嬉しそうに話しかけてきたり。

「手赤くなってんじゃねえか。」

寒さで赤くなった私の手をさすったり。足元に流れる空気は重くて、私は未だに一歩も動けずにいた。あの時御幸が私の事をみていたあの瞬間だけは確かに、二人同じ気持ちのような気がしていたのに。

それから、御幸が私の事を好きと言ったことを思い出して、少しも意味が分からないのに心臓が早鐘を打ち始めるのだった。




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