御幸はきっと分かってないのだ。私がどれだけ御幸のことが好きかなんて、少しも。

「振られて告られたの?」
「うん。」

何それ、とは丸っきり私のセリフである。どういうつもりなのか、何を考えているのかいまいち分からないし。でもあの日私を連れ出したのは彼だったし。そもそも。私は彼にとって少し特別な存在でいると感じていたのだ。内心勝算があったから好きなんて言ったわけで、もしかしたらなんて思っていた。だから謝られた時、悪い夢としか思えなかったのだ。

「ついに振られちゃった。」

なんでさと言う友人に、縋りつくみたいに机に倒れこむ。言うなれば両想いだ。だから謝る理由なんてない、それにどうしてそんなに悲しそうに言うのかも分からなかった。そもそも彼の言う好きとはどういう意味だったんだろうか。好きか嫌いかの二択で言ったの?それとも恋愛的に。変わらず友達でいたいから?御幸の言うスキは分からない、そのまま曖昧になっていた。

あー、その。わりい。

繰り返し鳴る、心臓が嫌な感じに冷える感覚に引っ張られるように浮き上がってきた冬の日。勘違いさせる程に御幸は優しく笑いかけたのに、それでも私達は恋人にはなれなかったのだ。手に触れて、顔を近づけて。心が近くなっていく感覚と、その特別な感覚を感じたのは私だけだったのだろうか。
でも、本当に友達でいたいならごめんなんて謝らないで、私を掴んで引き寄せて、友達の延長線みたいな恋をしてくれれば良かったのだ。私は友達のままでなんかいたくないし、仮にも私の事が好きならそれくらいしたっていいじゃないか。そんな事は言えないのだけれど。

「そんな気になるなら本人にきけばいいじゃないの。」

振られた相手と軽々しく口をきけるわけ。そう言ったとき教室のチャイムが鳴った。嫌いな女子の笑い声が遠くからきこえてきた。ずっと苦手だった男子の声もきこえた。ただ空っぽの私の心の空間に染み込んでくるみたいで、御幸とこれからどうすればいいのか全く分からない私を責めるみたいだった。結局いつまでも出ない答えを考えていた数学の授業はいつも以上に上の空だったし、前の方に離れて座っている御幸の背中が視界に入るだけで心臓が急に締め付けられて、ため息をついてしまうし。御幸が私の横を歩いていくときも同じく呼吸が苦しくなった。そうして放課後になって席を立ちあがった御幸とその日初めて目が合った。私はおもむろに目をそらして、ばーかと小さく呟いた。そしてそれに気が付かないで教室から出ていくその茶髪を見ていると、もっと泣きそうになった。




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