失恋は病気だ。急な立ち眩みが起きて地べたに座り込んでからやっと気が付いた。ずっと続く体調不良に言い訳をつけるためなんかじゃなくて、確信を持ってそう言える、流行り風邪みたいな恋なんかよりずっと病気だ。

「今日のHRって何だっけ。」

高校生活がやっと始まったような錯覚に洗われてた。移動教室帰りに他愛ない話をしながら、今日行われる席替えについて話す。仲いい人と一緒になれればいいなあと言う友達の横顔をみながら私もと呟いてみたが、正直御幸が近くじゃないならどんな結果だっていいのかもしれない。そんなことを言ってみると、友達は笑いながら「そういうこと言ってると本当にそうなるよ。」と言った。私は笑いながらその話を流した。が、

「よろしく。」

御幸はそう言うと、へらへらとした態度で私の横にどかりと座ってみせた。当の私は口の中でもごもごと返事をするだけで、御幸の方をしっかりと見れないままだった。まるで悪夢みたいな状況は、さっき始まったばかりのHRが原因だった。委員長の差し出されたままにくじを引いたところ、ペアはまさかの御幸で、正直現実を疑った。どれだけの確率を超えて私たちは一緒になったのだろうか。もう本当になんて最悪なんだろうと頭を抱えたが、私の横を通った友達はほらね。どんまい。と肩を軽く叩いて歩いていってしまった。本当に最悪だ、振られた相手とだなんてとんだ災難だ。おもむろにため息をつくと御幸はニヤついた表情で私をからかう。

「おいおいなんでそんな嫌そうなんだよ。」
「…嫌そうって、普通分かるでしょ。」

御幸が私を振ったから、とは周りに人がいる中では流石に言えなくてまた口ごもる。御幸は私のことなんて少しも意識していないようだった。ちょっとは恋愛対象として意識してくれないのだろうか。これじゃあ告白する前となんら変わりない接し方だ。それとも御幸の中ではあの告白はそんな大したものじゃなかったのだろうか。そう思うと増々腹が立ってしょうがなくて、隣でニヤついたままの御幸を無視して前から回ってくるプリントを後ろの人へと渡していく。

でも。それでも、御幸の事を嫌いになれないままの私は、段々はやくなっていく鼓動に気付かないように振舞うだけで精一杯だった。




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