凍った道に二人で歩いていると、私は手を繋ぎたくなった。あの時私は手を握ればよかったのだろうか。そしたら私の気持ちは伝わっていたのだろうか。マフラーをぐるっと巻いて、ポケットに手をつっこんでいた彼に。そしたらきっとこんな悲しい気持ちにはなっていなかっただろう。

「おはよう。」
「…。」
「おいおい、無視か?」

朝練を終えて教室に入ってきた御幸は随分上機嫌そうに私に話しかけてきた。この前悪夢が起こってから、毎日この人の隣で授業を受けている。御幸は前と変わらず私に接して、いや以前よりも親しげに話しかけてくるのだった。最近は、前みたいに楽しく話すこともあるようになって、私の中からあの不信感が消えていっているような気がした。このままなあなあになっていいのか、それは嫌なのに御幸に流されて話すようになっていた。
前みたいな胸のときめく感じはなく、痛みの方が目立って、それでも好きなのはいつまで経っても不思議だ。
御幸は目を細めて、少し笑いながら私に言った。

「なあ、またあれしねえ?」

「また、どこか行こうぜ。」

私は何て言えばいいか分からずただ、目をそらして頷いた。

「御幸、休みないじゃん。」
「だから、そうだな。あー。」

自分で言ってきたくせに、すごく困っている彼はHRが始まったのを見て、また今度な。と話を切り上げてしまった。ずっと、心の中でささくれていたものが癒えるような、また傷になるような。今まで、何度か恋をしてきたつもりだったけど、この人を好きになるのはまた違った感覚だと思った。私はまた大人にならなければいけないんだなと。

私達に足りないものを知れたら、もっとわかり合えるのだろうか。痛みなんてどこにもなくなるのだろうか。私は、ただ居てもたってもいられなくなって、かき消すように周りの喧騒にとけ込んでいったのだった。




BACK