彼の横顔を盗み見る瞬間、触れたいと思う。廊下ですれ違う時、胸がきゅうと苦しくなる。名前を呼ばれると、嬉しくて不器用に返事をする。御幸の目は綺麗で、そこに映る自分が気になる。どんな風に見えているのか、私を見て何を思うのか。他愛のない話をするのに、私はききたい質問は一つも出来ていなかった。

「なあ、お嬢さんどこ行くの?」

先生に急ぎ出さなきゃいけない課題を持って、席を立った。職員室、それかあの一年のフロアにいるかも。へえ、そうか。教室を出ようとすると、後ろから御幸がついてきていた。

「何よ。」
「何でだろうなあ。」

私が声をかけると横に並んで、嬉しそうに意地悪に笑ってた。そしてまたどうでもいい話。先生どこにいるんだろうなとか、明日の天気の話。少し周りに見られてる気がして、耳打ちする。

「ねえ、どうして私に話しかけるの。」
「どうしてって、ダメなの?」

立ち止まって、周りに人がいなくなってから小さな声で言う。

「あまり仲良くしてるとカップルに見られるから。」

それに私だって、とまで言ってぎこちなく目を見てみた。その目は相変わらず吸い込まれそうな、でもその感情は一切読めなかった。そしてはははと笑って、そっかと言って歩き出した。どういう答えなのか分からない。心はかき乱され、いつもこうだ。おもむろに御幸の袖を掴んでいた。

「振ったのに、仲良くしないでよ。」

私はそれ以上言えなかった。御幸はしばらく止まって、袖から滑り落ちた指に触れた。そしてぱっと離して、曖昧に笑った。どうしてなの、どうして何も言ってくれないの。泣きそうになりながら、ぐっと堪えて下を向いてノートを抱きしめた。

「だって、名前を傷つけるだろ。」

それ以上何も言わない彼を見ていると、人が後ろから通りすぎていった。向こうからも誰かが歩いてくる、黙って歩きだすと彼もついてきた。今周りから私たちはどう見えているのだろう、恋人?それともただのクラスメイトか。彼がどう思ってるのかも分からないのに、分かるわけないか。
失恋の痛みは、ドクドクと血を流し、より一層傷を広げていっているように思えた。




BACK