ついた場所は山奥の廃村。

東京でも廃村はあるんだなとぼんやり思った。


でも、まだ昼間だというのにちょっと不気味。



『廃村てこんなに不気味なものなんですか?』

「まぁ、呪いがいるからね」

『なるほど』

「この村にはね、ある言い伝えがあるんだ。柚希はさ、男女の双子は前世で一緒になれなかった恋人同士って聞いたことある?」

『ありますけど………それってタイで言われてる話ですよね? その場合その双子は結婚しないと早死にするとかって』

「そっ!! 双子は元来不吉だって言われてたでしょ? 片割れは殺されたり里子に出されたり。この村ではそうじゃなかったんだよね。むしろ縁起がいいものとされていた」


それがどうして呪いを生むことになったのか。
黙って話の先を促す。



「この村、双子の出生率が異様に高かったんだよ。男女の双子は結婚。それ以外も双子は双子同士の婚姻が当然だった」

『まさか、昼ドラもビックリな愛憎渦巻く出来事があったってことですか』

「せいかーい!! 男女の双子、男の子の双子、女の子の双子、この3組が織り成す愛憎劇だよ」

『うへぇ…………』


ちょっとげんなりしながらも、先生の言葉に耳を傾ける。
足の長さは圧倒的に違うが、歩幅を合わせてくれているようで、置いていかれることはない。
それに甘え、周りを観察しながら、考えながら先生の横を歩く。



「男女の双子の女の子は自分の片割れが好き。でもその片割れは女の子の双子の長女が好き。その長女は男の子の双子の長男が好き。その長男は女の子の双子の次女が好き。その次女は男の子の双子の次男が好き。その次男は男女の双子の女の子が好き」

『あ"ー!! ややこしい!! 逆によくそんな事になりますね!?』

「まぁ、誰も報われない想いが廻ってるよね。そうするとどうなるか」

『まさか、ドラマじゃあるまいし…………』

「そのまさか。男女の双子の女の子は女の子の双子の長女を、その長女は自分の妹を。その妹は男女の双子の女の子を、それぞれ殺害する計画を立てた。最悪なのはそれが同時におこり、3人とも亡くなった」

『おぉ…………』

「その後、残された男も互いを殺し、呪った。自分の愛する人を愛さず死なせたと」


つまりは、こう?


-------------------------------------------

        長    次
男女の双子: ○♂♀  ♂♀○
男男の双子: ○♂♂  ♂♂○
女女の双子: ○♀♀  ♀♀○


好意:

○♂♀  ←  ♂♀○

 ↓       ↑

○♀♀     ♂♂○

 ↓       ↑

○♂♂  →  ♀♀○


殺意、殺害:

○♀♀  ⬅️  ♂♀○

 ↘️      ↗️
    ♀♀○


○♂♀  ⬅️  ♂♂○

 ↘️      ↗️
    ○♂♂


-------------------------------------------


うーん、図にしてもイマイチ。
でも、廻り廻ってるのは分かった。



『じゃぁ、ここの呪いが強いのって終わりがないからですか?』

「そういうこと」

『やっぱり愛が1番厄介な呪いですね』

「僕もそう思うよ」

『でも、嫌いじゃないです』

「え〜そうなの?」

『呪われるほど、愛されてみたいっていう好奇心と願望です』

「憂太と気が合いそうだね」

『憂太?』


1つ上の2年生で、今は海外にいるらしい。
特級被呪者で、呪いは婚約者だった女の子。

そう、かいつまんで聞かせてくれた。



『それこそ純愛じゃないですか』

「解呪も出来たしね」

『あ、そうなんですね。里香ちゃんと話してみたかったなぁ』

「そんなこと言うのは柚希ぐらいだろうね」


女の子は恋バナが好きなんです〜。
きゅんきゅんする話を聞きたいんです〜。

そうぶつぶつ言ったけど、先生は特に何を言うまでもなく黙ってた。


私も一通り言い終わると満足したから静かに歩いた。



村の1番奥にある広間までやってきた。

どうやら、冠婚葬祭を行っていた場所らしい。



『うわぁ………ヤバそうなのがいるぅ……………』

「じゃ、頑張ってね〜」

『はぁい…………』


先生は端の方に立ってニヤニヤしてる。

私は中央まで進んで立ち止まる。

すると置くから、女とも言えるし男ともいえる、子供にも大人にも見える人が歩いてきた。


あ〜さすが、五条先生が受け持つ任務だね!?



「ネえ、しっテ、る?」

『…………………なにを?』

「はツこい、ハ、かなワ、な、いノ」

『それは人それぞれじゃね』


ついそう返してしまった。
後ろで先生が笑いを堪えてる。



「お、まエ、の、はツコい、は、かナっ、たカ」

『まだ、です』


とうとう先生が吹き出して爆笑してる。
なんか恥ずかしすぎる。

なんでこんな仕打ち受けてるんだ。
でも、まだと答えたことが琴線に触れたらしい。



「わた、シ、は、かナわな、かッタ、のニ!!」

『あ"ー!! 急に怒るやん!! ヒステリックはモテないんだからな!!』


すごい勢いで包丁が飛んできた。

なんで包丁!?
しかも錆びてるし!!
刀抜いてて良かった!!
最初の数本を弾いて、"鏡花水月"を発動させると、残りは通り抜けていく。


今度は普通に呪力を飛ばしてくるけど、全く効かない。
風が通りすぎる感じ。

イライラがたまってきた呪いは、直接攻撃を仕掛ける方に切り替えたようで、物凄いスピードで殴りかかってくる。

それを避けたりしつつ、"破鏡不照"の術式を刀にのせ切りつける。



「あ"ぁ……あ"あ"ぁ"、ぁ"あ!!」


腕を切り落とすと呻き声をあげて踞った。
すると、あり得ない事が起きた。

"破鏡不照"で切りつけられると治らない。
なのに、ソイツは腕を復活させた。



『えぇ……なんでよ………』


その後も腕やら足やら切り落とすのに、復活する。


あ。

あ。

そういうこと!?


もしかして、6人が合体してる?
治ってる訳じゃなくて、別の手足を生やしてるだけか!!


じゃぁ頭を6回潰せば倒せるね。

そう当たりをつけて、頭部中心に攻撃を仕掛ける。
注意深く見てれば、手足の造形が違うし顔も違う。


3回程頭部を攻撃したかな。
楽しくなっちゃったんだよね。

平和が1番だと思ってたし、思ってる。


でも今も物凄く充実してて楽しいと思ってるのも事実。
そうすると、手足への攻撃も多くなる。


相手を圧倒する快感と高揚。


まだまだこれから!!
と思ったら先生に声をかけられた。



「柚希、いつまで遊んでるの? 早くしないと帰りが遅くなるよ」

『………………はーい』


怒られた。
はい、ちゃんとします。



『神境呪法………"破鏡不照"……術式付与、"万華鏡"』


鏡の破片を出す。
そして、"万華鏡"は威力増幅。

単体では意味をなさないが、組み合わせることで力を発揮する。


出現させた鏡の破片が辺りを埋め尽くす。
それらを全て呪いに向かって放つ。


吹き飛ぶ手足と頭部。
破壊される度に別のものを生やすが、6体しかないのだから、すぐに尽きる。

そのまま6体目も破壊され、呪いは霧散した。



「お疲れサマンサー!!」

『先生は本当に見てるだけでしたね』

「必要なかったでしょ? 柚希だって途中から遊んでたし」

『なんか、テンションが上がって』

「うん、戦闘狂って感じがした」

『女子高生に言うことですか』


戦闘狂とは聞き捨てならない。
うら若き乙女ですけど!!



「うん。柚希には僕の任務を振っても大丈夫って確認も出来たし」

『え、実地試験じゃなかったんですか』

「僕の任務を肩代わりできるかの実地試験だよ。報酬はそのまま柚希にあげるからさ。手伝って?」

『えぇ…………まぁいいですけど』


五条先生とはこういう人。
無駄な事はしないだろうし、死にそうなものは振ってこないだろう。

そう飲み込んだところで、思い出したように声をあげた。



「柚希、初恋もまだだったんだね?」

『………………………………………』


えーえーそーですけど!?
なんか、恥ずか………恥ずかしがることか?
初恋が早かろうが遅かろうがどっちでもよくない?

なんか、ニヤニヤしてきてムカつく。



『そう言う先生は、女なんて取っ替え引っ替えしてそう』

「え、そんなこと思ってたの」

『現在進行形で思ってます。セフレ沢山いそう』

「コラ。女の子がそんなこと言うんじゃありません。そしてセフレもいません」

『……………!?』

「え、吃驚しすぎじゃない? 僕にどんなイメージ持ってるわけ?」

『初対面の女子高生をホテルに連れ込んで押し倒す教師』

「うーん………間違ってない」


だよね。
私がやられたことそのまま言っただけだし。

というか、間違ってないという時点でアウトな気がするんだけどな。



『さぁ、早く帰りましょう』

「そういえば、寮出るときに大きな鏡出してたけどさ。あれ、なに?」

『…………………ただの姿見ですけど』

「嘘下手すぎない? どうして姿見だけ出す必要があるのかな〜?」

『…………通路です。卯月と弥生を繋げてるんです』

「じゃぁすぐ帰れるんだ?」

『帰れますけど…………女子の部屋から出てくるところ見られたら今度こそヤバくないですか』

「………………車で帰ろうか」

『はーい』


ちゃんと高専まで車で帰り、お風呂に入ってベッドで眠りました。







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