ふっと意識が浮上した。

おそらくベッドにいる。
もの凄く肌触りがいいから二度寝がしたい。
時には欲望に忠実になるのも大事。

ということで再び意識を飛ばそうとしたのに、起こそうとする声が聞こえた。



「起きてー。いい朝だよ」


無駄にいい声だったからもっと聞きたくて起きなかった。


あれ、そもそも私1人暮らしでは。


一気に覚醒して目がぱっちり。



「あ、起きた? もうちょっとだったのに。残念」

『………は』


目の前には見覚えの無い、瞳が滅茶苦茶綺麗な人。
その向こうには見知らぬ天井。
押し倒されてる。
いや、夜這い?
朝だけど。


キャパオーバーです。



「大丈夫?」

『………………………………だ、れですか』

「え」


10秒だったか10分だったか分からないけどお互い固まってしまった。

先に我にかえった彼が再び問い掛けてきた。
それより退いてくれないかな。



「本当に分からないの?」

『はい』

「流石に傷付くよ? あんなに刺激的な出逢いだったのに」

『刺激的…………』


昨日はいつも通り学校から帰って寝たはず………………………いや。

そうだ、確かに刺激的だった。
じゃぁ目の前にいるのは。



『ガチで誘拐したんですか』

「違うよ!? 君あのあとぶっ倒れてさ。家とか知らないから僕が泊まる予定だったホテルに連れてきちゃった☆」


語尾に星が付いてる…………
まぁでも確かに昨日の記憶は曖昧。

そしてこの人は、教職員だったか。
世も末だな。

まぁ警察官だろうと犯罪起こすから関係ないか。



「ねぇ、残念なもの見る目しないでくれる?」

『やめて欲しかったら退いてください』

「照れたりしないの? 女子ウケいいと思うんだけどな、この顔」

『例えイケメンでも許されないことはあるんです。というか、誘拐犯にときめくとか貞操観念大丈夫なんですかね』

「グサグサ刺さる…………でも君も抵抗らしい抵抗してないけど」

『ふざけてても一線は越えないだろうと判断しました』


じゃなきゃあのツンツン男子だってもっと嫌悪感を表すはずだし。
多分………

そういうと、へぇといって退いてくれた。
漸く体起こせる。

改めて部屋見るとかなりいい部屋。
私の人生で1回泊まれるかどうか。



「首の傷はどう?」

『ちょっとピリピリします』

「そっか。それでこれからの話なんだけど」

『これから? え、家に帰してくれないんですか』

「それは君の返答次第、かな」


今までの軽い感じは鳴りを潜めて詳しく説明してくてた……………なんてことはなくて。



「呪術師にならない?」


これだけ。
もうちょっと何かないんだろうか。



『ならないって言ったら帰してくれるんですか』

「呪術師ってさ、万年人手不足なんだよね」

『まぁそうでしょうね』


このご時世、どんな職種でも人手不足だ。
適正の線引きが厳しいものほど顕著だろう。



『そういう世界って上層部というか、年寄りの頭が固くて邪魔者は冤罪でもいいから処分してしまえみたいなイメージあるんですけど』


それを聞いて一瞬ポカンとしたのち、膝を叩きながら爆笑しだした。
そんなおかしなこと言っただろうか。



「君、いい勘してるよ。クソな呪術会をリセットしたいんだよね。だから強く聡い仲間を育ててる」

『あーだからあなたみたいな人が教師なんてやってるんですね』

「せいかーい。ますます気に入った。君が懸念してることからは守ってあげられるよ」

『まぁ……いいですよ』


恐らく、私が簡単に返事したように聞こえたんだろうね。
吃驚してた。



「危険だよ?」

『自分で誘っておいて言いますか。生まれてからずっと相手にしてきましたからね。分かってるつもりです。あとは、嬉しかったんです』

「嬉しい?」

『同じように見えて祓える人がいるんだって。天涯孤独に90まで生きる人生か、仲間がいる30までの人生か。選ぶなら後者です。長生きが必ずしも幸せとは限りませんし』

「へぇ………じゃぁ覚悟は決まったのかな」

『何をしてでも生きる覚悟をしました。死ぬ覚悟は直前でします』

「君、やっぱり最高だね」

『あ、1ついいですか』

「なぁに?」

『お名前なんですか』

「…………………………言ってなかった?」

『はい』


それに私も名乗った記憶がない。
とりあえず自己紹介して、家に帰してもらった。







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