「ほら行きますよ、真昼」


笑ってて、ついてきていない私に気付いた降谷さんが振り返ってきた。
優しげな色を浮かべた蒼い瞳で、私を見ながら手を差し出してくる。

安室透ではしないだろう表情に、真っ赤とまでは言わないがそれなりに頬を染めてしまった。
そんな私に降谷さんは驚いた顔をした後、近寄ってくる。



「まったく……」


そう呟きながら戻ってきて私の手を取るが、近付いたことで降谷さんもほんのり頬を染めているのに気付いた。

私は思わず片手で目元を覆い、下を向く。



『反則ですって……』

「それは僕の台詞です。いつも飄々としているのに、何故そこで頬を染めるんです?」

『ほっといて下さい』


中々顔をあげられない私を降谷さんが引っ張り、店内をなんとか歩く。
降谷さんは特に気にした様子もなく、必要なものをカートに入れていく。

周りからみたら駄々を捏ねる子供が親に引っ張られているように見えるだろうなと気付いたとき、スーっと冷静になった。
同時に頬の熱もひいた。



『さっさと買って帰りましょう』

「切り替えが早いですね、貴女は」

『手を引かれている方が恥ずかしいと気付いただけです』


降谷さんと繋いでいた手を離し、数歩先を歩く。
可愛い反応とは言えないが、後ろで降谷さんがクスクス笑っているので、気にしないことにした。






* * * * * *



買い物を終え、私の住むマンションへとやって来た。
地下に駐車場があるので、そこに車を停めてもらい部屋へと向かう。



「外観から想像はしていましたが……流石ですね、ここのセキュリティは」

『安室さんがそう言うなら安心ですね』

「……僕の本宅でもここまではないからな」

『そうなんですか?』


そんな話をしている間に部屋の前に着いた。
玄関の鍵を開けて、先に入るように促す。
チラリと周りに人がいないかを確認して部屋に入り、鍵を閉める。

玄関では、降谷さんがある一点を見つめて突っ立っていた。



『ようこそ、我が家へ』

「…………」

『………アダム、イヴ、おいで』


動けないし喋れない降谷さんが新鮮で、もう少し見ていたいが流石に悪趣味だろうとやめる。
アダムとイヴも若干緊張しているようだ。
それでも、私が呼ぶと嬉しそうにすり寄ってくる。

その横でさらに降谷さんの緊張感が増した気がした。



『降谷さん、そんなに身構え……緊張しなくても大丈夫ですよ』

「……何処が猫だ」

『猫は猫ですよ。それに、家に豹がいるんですけど大丈夫ですか?何て言って信じました?』


そんなやり取りしている間、アダムとイヴは喉をゴロゴロならして私にじゃれついてきつつも、降谷さんが気になる様子。
大丈夫ですから触ってみてくださいというと、恐る恐る手を伸ばす。
そんな降谷さんにじれったくなったのか、アダムが先に飛びついた。

飛びつかれた拍子に玄関に倒れ込んだ降谷さんは、アダムからじゃれつかれアタフタしている。
そこにイヴも飛び付き1人と2匹、玄関でもみくちゃになっている。



「ちょ、落ち着け!!」

「がぅ!!」

「に"ゃ!!」

「豹ってにゃーっとも鳴くのか……」

『降谷さんがにゃーって…………』


そんな私の呟きは聞こえていなかったようで、反応はない。
今度、旭兄さんに話そう。

そんな事を考えていれば、降谷さんも2匹に慣れたようで、喉を撫でたりお腹を撫でたりしている。
仲良くなってくれたのは嬉しいが、少し面白くないと感じる。


私は特に深く考えもせず、降谷さんに飛び付いた。





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