今日はハロウィンパーティー当日。
勿論私はパーティーには参加せずに、この波止場に来ている。
少し、というかだいぶ早く来てしまった。
先ほどジョディに変装したベルモットがFBIを解散させたところだ。


『やばい、暇すぎる』

時間が来るまで、コンテナの上で紅桜鬼にもたれ掛かる。
アダムとイヴでもいいかなと思ったけど、隠すに隠せないあの子達を連れていれば、私が柊真昼だとばれてしまう可能性がある。
それに、最近は戦闘系の任務も無く、この子もフラストレーション溜まりまくりだったから丁度いいが。



とりあえず、カルバドス辺りが来るまで待機ってことで寝ます。
紅桜鬼、何かあったら起こしてねーとなんとも緊張感のない言葉を発して目を閉じる。







* * * * * *


どれくらい経っただろうか。
紅桜鬼が尻尾で私の顔をペチペチ叩くので、閉じていた目を開ける。


『…ガーネットか。どうかしたか?』

「ラピスラズリ、この場所に3人ほどスナイパーが来るようです」

『例の組織の人間か?』

「はい。1人はラピスラズリが仰っていたカルバドスという男。あとはコードネームを持たない者のようです」

『コードネームを持たないなら問題はないだろう。1番離れたところにいる奴だけ殺ったら戻ってくれて構わない。悪いな、お前の手を煩わせて』

「いえ、問題ありません」


では、後程とそういって音もなくこの場を離れる。
彼の暗殺は本当に見事としかいいようがない。
あのザンザスさえも唸らせるほどの実力者。
これから彼の手を借りることが増えるだろうな。

そんなことを考えていれば、1人の人間の気配が消えた。
ガーネットは私にさえ気配を気取らせない。
本当に、私の部下には勿体ないなと思う。


『じゃぁ、紅桜鬼は合図したらあそこにいる奴を殺れ。その後私の所に戻っておいで』

分かったと、返事をするように喉をならす。
頭を撫でてその場を離れる。
今回で最も重要な目的を果たすために……




私が例の場所についたときには哀ちゃんが到着する直前で、哀ちゃんの変装をといたコナン君がベルモットに正体を明かしていた。
こんなにも皆が化けて騙しあい、なんて事は今回だけだろう。
幻覚を使ってくれたら見破るのは簡単なのにと心の中でぼやく。



『んー………タイミングがわからん』

出ていくタイミングをはかりかねていれば、その間にも目まぐるしく状況が変わっていく。
哀ちゃんの登場から蘭の登場まで、動けなかった。



「ラ、ライフルの死角は取ったわ……銃を捨てなさい!!さもないと次は頭を……」

ジョディはベルモットの注意がそれたのを見逃さず、場所を移動していた。
焦るベルモットを助けたのはシャコッとポンプ音を響かせながら歩いてくる誰か。
ベルモットはカルバドスと思っているようで、余裕の笑みを浮かべている。
だが、それが崩れ去るのも時間の問題。



「ホー……あの男、カルバドスって言うのか。ライフルにショットガンに拳銃3丁……どこかの武器商人かと思ったぞ…」

「あ、赤井秀一!?」

私からしたら漸くお出ましかって所だね……前髪わかめだな。
固いのかな、柔らかいのかな……今度シトリンに聞いてみよう。


「まぁカルバドスは林檎の蒸留酒……腐った林檎の相棒にはお似合いってトコロか……」

「腐った林檎?」

「アンタに付けた標的名だ……大女優シャロンが脚光を浴びたのは、舞台のゴールデンアップル!あの時のままアンタは綺麗だが…中身はシワシワの腐った林檎(ラットウンアップル)ってな!」


面白いほどに相手を挑発する赤井秀一。
苛立ちを隠しきれなくなったベルモットは、持っていた拳銃を赤井に向ける。



……ズガン!


だが、逆にレミントンで腹部に撃ち込まれ、衝撃で後ろに倒れる。
さらに、散弾で裂けた頬から血が流れるのを見て、素顔だとバレてしまっている。



「……っいい気になっているところ悪いけど、連れてきたのはカルバドスだけじゃないのよ」

「…っなに!?」


最終手段だと言わんばかりに、さぁ殺っちゃって!!と叫ぶ。
今がいいタイミングかと思い、紅桜鬼に合図を送る。
私は、コンテナから飛び降りて赤井秀一とベルモットの間に立つ。




『貴方の言っている後の2人も、反応しないわ』

「誰……!!その、狐のお面………」

『へぇ…私の事知ってるんだ?……銀髪で長髪の男にでも聞いたのかな?』

「えぇ、組織を抜けられると本気で思っていた憐れな女の墓場に現れた……女狐」

『自分を殺しかけた相手に向かって女狐とは……あんまり利口な男じゃないわね』

「随分余裕そうじゃない?丸腰の癖に…」


私の登場に少し戸惑った彼女だったが、何の武器も手にしていない事に気付き、勝機があるとでも思ったのだろう。
残念だが……




『あら、私にも相棒がいるのよ?』

「…!?」


その時、紅桜鬼がタイミングよく私に横に着地する。
一般的に猛獣と呼ばれる虎がいれば、少なからず驚くだろう。
だが、この子は普通じゃない。
私の、ボンゴレの守護者だけに特別に作られた匣兵器。
ボンゴレが作ったにしては、気性が荒いが私からしたらかわいい奴だ。



「なに……それ………」

『可愛いでしょう?……とりあえず私がここに来たのは、最近の貴方達の行動が目に余るからよ』

「……貴方みたいなのが私たちの何を知っているのかしら?」

『そうね、貴方達があの方と呼んでいる人物の居場所とか……かしら?』

「あなた……何者?」

『私はラピスラズリ。調べてみたら?案外すぐに私が何者か分かるはずよ』

「すぐに分かるような奴なんて、調べるに値しないわ」


そう言うと同時にダッと走り出して眠らされたコナン君を抱え、車に乗り込む。
鍵が抜かれていなかったようで、そのまま走り去ってしまった。
勿論、もう1台の車を爆破させることを忘れずに。



「あの体でミラーごしにガソリンタンクを撃ち抜くとは……やるねぇ」

「なに関心してんのよ、人質取られて逃げられちゃったじゃない!!」

そんなやり取りを背中越しに聞きながら、未だに地面に倒れ込んだままの彼女達の様子を見に行く。
…特に外傷もなく、気絶しているだけのようだ。


「……それで、お前は何者だ?」


ホッとしてこのまま立ち去ろうとしている私に案の定声をかけてきた。
私は彼に向き直り、視線を合わせる。



緊迫した空気が漂うこの場には車が燃える音だけが響いていた。





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