『気になる?私が何者か』

「あぁ、お前にはいくつか聞きたいことがあるからな」

『……さっき話していた憐れな女の事かしら?』



そう茶化すように笑って言えば、微かに顔をしかめた。
何も言わずただ此方を見つめている。
いや、睨み付けていると言った方がいいかもしれない。

『貴方が思っている通りよ………宮野明美がジンに撃たれる現場にいた。ただそれだけ』

「何故その場にいたのかを聞いている!!」

『知っていたからよ。それ以上でもそれ以下でもないわ』



その瞬間、この場の空気が凍りついた気がした。
彼等の私を見る目には敵意、疑惑、怒り、そんな負の感情が入り交じったような色を浮かべている。


「……知っていて、その場所にいながら見殺しにしたと言うのか」

『貴方はその場所にすら現れなかったじゃない。自分が守れなかった弱さを人のせいにしないでくれる?』

「貴女!!何様のつもり!?シュウがあの時どんな気持ちだったか知らないくせに、よくそんなことが言えるわね!」

「…黙れ、ジョディ」

『……赤井秀一。お前の周りには憐れな女が集まるみたいね』



そう嘲笑って、もうこの場にとどまる必要もないとでも言うように背を向けて歩き出す。
ジョディはまだ何か喚いているようだが、赤井に煩いと言われ押し黙る。





『貴女を失って、彼の心は想像以上に悲鳴を上げてるわ』


思わず声に出してしまった言葉を彼等に聞かれなくてよかった。








* * * * * *



「シュウ……」


「………日本警察のお出ましだ。後は任せた……長期休暇で来日していたFBI捜査官が、ガキの誘拐事件に巻き込まれたとでも言っといてくれ。俺はその茶髪の少女と顔を合わせるわけにはいかないんでな……」



狐のお面を付けたあの女のせいで、彼の心が抉られたように感じた。
でも、それを悟らせずに冷静を装うことなんて中々出来ることじゃないわ。
彼になにもしてあげられない事が歯痒い。
私じゃ、代わりにもならないかしら………
そんなことを思った自分に驚く。
まだ、彼の事を愛しているのだろうか……そんな事はもう無いと思っていたのに。


あの女のせいで思い出したくなかった、気付きたくなかったことを自覚させられた気がした。






* * * * * *



あのまま波止場を後にした私は、自宅に戻ることはせずに並盛にやって来た。
なんとなく、1人で居たくなくて、気が付けばボンゴレのアジトと風紀財団のアジトの境に立っていた。
時間を確認すれば既に午前1時を回っていて、流石に迷惑かと思い、Uターンして自分の部屋に向かう。



『このアジトにいれば1人じゃないからね』

そう呟いて自分を納得させる。
意識なく眠りたかったけどしょうがない。
彼に貰ったぬいぐるみで我慢しよう。
自分の欲求だけで彼のもとに訪れる私にはこれで丁度いい。


自分のいいように利用していることは分かってる。
きっと彼はそれに気付いていて、それでも何も言わずに利用されてくれる。
その優しさが嬉しくもあるけど、苦しくもある。
いっそ突き放してくれたら諦められるのに、と何度思ったことか。
そう考えて、それすらも自分勝手な考えだと気付いた。




『誰かに助けて欲しいとか………………』


こんなの私らしくない。
でも今だけ、どうせ誰も見ていないんだ。
自分の心が疲弊していることに目を瞑り、ぬいぐるみを抱く腕に力を入れる。





明日の朝には神流瑞希として、柊真昼としてあるべき姿であるために。






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