『…………もう朝か』


そう自分に言い聞かせるように言葉をはいて、ベッドから体を起こす。
とりあえずお腹すいたなと、思いながら着替える。
そういえば、今このアジトに誰がいるんだろうと思って動きが止まる。
まさか誰もいないなんて事は………なんて事を考えていれば、部屋の扉をノックする音と、声が聞こえた。




「瑞希姉?ここにいる?」

『フゥ太………いるよ、開いてる』

「おはよう、瑞希姉。いつから此方に来てるの?」

『ちょっと前かな?綱吉からの任務で今は米花町にいるよ』

「そう………なにか、あったの?」

『………なんにもないよ。日本にいるなら、この部屋も掃除しとかなきゃなと思ってこっちにきただけだから』

「……そっか。あ、朝食食べるよね?準備できてるよ」

『食べる食べるー』


色んな欲求の中で食欲と睡眠欲が1番強い気がする。
すぐに立ち上がってフゥ太の後ろを着いていく。
ここのアジト、構造が複雑でいまだに迷いそうになるし。
実際、ここに来てすぐは自分の部屋に帰るのも一苦労で、監視カメラを見ているジャンニーニに合図を送って助けてもらったりした。
毎回そんなことが続くものだから、誰も私1人で行動させようとしなかったっけ。




『ねぇフゥ太?まさか私の部屋に来たのって…………』

「僕が頼んだんだよ」

『雲雀さん………』

「やぁ、瑞希。ご飯食べ終わったら此方に来てよ」

『ちょ、雲雀さん!?』

そう言いたいことだけ言って立ち去ってしまった。
本当に、雲の守護者って雲雀さんのためにあるようなものだなと思った。
暫く立ち尽くしてしまっていたが、呼び出されたことを思いだし、キッチンに行こうとフゥ太を促した。



『ご馳走さまでした』

「瑞希姉、お茶飲む?」

『飲みたいけど………雲雀さんの呼び出しがあるから行ってくる……』

「あ、待って僕も行くよ」

『………』

皆私の事なんだと思ってんの………
下げた食器を慌てて水に浸けるフゥ太を見ながらため息をつく。



「その必要はありませんよ」

『あ、草壁さん』

「お久しぶりです。神流さん」

『お久しぶりですね』

「草壁さん、瑞希姉をよろしくお願いします」

「はい。行きましょう。恭さんが待っていますよ」


じゃぁね、瑞希姉!!って笑顔で手を振るフゥ太。
なんか………容疑者の引き渡しみたい。



『……はぁ』

「どうしました?」

『なんでもないっす…』


別に何をしたわけでもないのになんか行きずらい……
行きたくないなと思っているからなのか、すぐに彼のいる部屋についてしまった。
では私はこれでなんて言って草壁さんはどっかにいってしまう。
どうせなら扉も開けていってほしかった…


「瑞希、いつまで部屋の前でうろうろしてるの。早く入ったら」

『あ、はい失礼しまーす』


扉を開けるか開けまいか、迷っていれば部屋の中から冷たい声が聞こえた。
まぁ、特に気配を消そうともしてないからすぐ分かるとは思うんだけど。




「で、どうしてここにいるんだい?」

『あー……部屋の掃除に』

「君が掃除のためだけにここに来るとは思えないね」

『………まぁ、うん』

「言いたくないならいいけど、どうして入り口で引き返したんだい?」

『夜中でしたから………』

「気にしなくていいと言ったこと、忘れたのかい?君、物覚えはいいと思っていたんだけどね」



雲雀さんは思ってもいないことは口にしないから、きっと本心なんだろうけど……


「はぁ…まぁいいや。それより此方に来て寝たら。隈、酷いよ」

『いや、大丈夫です……』

「……限界が来る前に言いなよ」

『はーい』

「……まぁいいや。そうだ、この前借りた君の部下……彼、中々優秀だね」

『でしょ?』


雲雀さんは私が何者か知っている。
だからお互いに利益がある場合は協力することはよくあること。
今は、ネフライトが彼らと行動を共にしていたはずだけど……



「久しぶり。瑞希さん」

『ネフライト………元気そうでよかったです』

「あぁ、ピンピンしてるよ」

『そう』

久しぶりに会う彼は前と何ら変わってない。



「で、瑞希。これからどうするつもり?流石に彼はここにはおいておけないよ」

『分かってますよ。とりあえず、米花町に戻りますね。ネフライトも』

「じゃぁ車まわしてこよう。長時間の移動になるけど大丈夫か?」

『はい。お願いします』

そう言うと車を準備するために部屋を出ていく。
月白鬼のアジトに余った部屋とかあったっけ?と考えていれば、雲雀さんが声をかけてきた。


「もう戻るのかい?」

『はい。一応平日ですから。学校行かないといけませんし』

「そう。気を付けるんだよ。暇を見つけたら会いに行くから」

『はい』

簡単な挨拶だけを交わして部屋を出る。
廊下の向こうから車の準備を終えたネフライトが戻ってくる。
行こうと言われ、そのまま彼の横を歩く。



車に乗ったら話があるから聞いてほしいと言えば 、分かったと返事が返ってきた
後は特に会話もなく、ただ彼について歩いていくだけだった。





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