「で、話ってなんだ?」

『あぁ…………赤井秀一に会ったってことです』

「ライに……」

『えぇ、貴方の知っている長髪ではなくなってたけど』

「へぇ、あの髪をバッサリいったのか………で、瑞希さんは何をそんなに思い詰めている?」

『凄いですね、やっぱり。なんか兄みたい………いたことないですけど』



風紀財団のアジトから外へ出る通路の途中で、話があるといっていたが、話ずらそうにしているので此方から声をかけた。
そうすれば躊躇いながらも答えてくれた。
久しぶりに会ったが、俺の知っている彼女とは随分雰囲気が違う。


『ちょっと、心ない言葉をかけちゃったかなぁって。まぁ、私に心があるかどうかも怪しいですけど』

「心がない人はそんな風に思い詰めたりしない。君は心の優しい子だと、俺は思っている」

『私は…………なんか私らしくないですね。忘れてください』

「君は、本心を打ち明けられる人を作った方がいい。そんなんじゃ、君の心は壊れてしまう」

『………そんなこと言うのは貴方ぐらいですよ』



そんな事はない、と思わず言ってしまいそうになった。
でもこれは彼女自身が自分で気付かなければ意味がない。
あの日彼女に助けられ、この組織に身を置くようになって彼女の人となりが見えてきた。
ただ、力が強いだけで普通の女の子だと
他人に守られなくても、自分で身を守れる彼女だからこそ心は支えてやりたいと、守ってやりたいと思う。
それでも彼女は、その心でさえも中々守らせてくれない。
不安を抱えても、誰かに助けてほしいと思っても、1人で押し殺して、神流瑞希であろうとする。


心は助けてほしいと悲鳴をあげているのに、自分は守られる側の人間ではないと見て見ぬふりをする。
窓の外を眺めている彼女の表情は今にも涙が頬を伝いそうになっていて、それを耐えるように拳を強く握りしめている。


彼女が何を抱えているのかは分からない。
なにも出来ない歯がゆさでハンドルを握る手に思わず力が入っていた。








* * * * * *



途中休憩を挟みながら、約7時間で今の家についた。
運転を代わろうとすれば、俺は運転好きだからさせてくれといわれ、そのまま甘えてしまった。



『ありがとう、運転』

「いいさ、男は運転好きだしな………なぁ、俺ってどこを拠点にすればいい?この顔じゃ流石に出歩くの危険だろ?」

『今日はうちでいいですか?明日アジトに行って部屋が空いてるか確認するので……』

「じゃぁ今日は世話になるな」


今週は学校休んでばっかだなと他人事のように思う。
あぁ、アメジストに明日はアジトにいてくれと連絡しないとな。



玄関を開ければ、アダムとイヴが飛び付いてくる。
そうだ、昨日はここに来る前に並盛にいったのだから、ほったらかしにしていたことに気づき、謝る。


『ごめんな、放置して』

おかえりと言わんばかりに私に鼻先をすり付けてくる。
ネフライトが後ろから現れれば、2匹は私から離れ、彼に飛び付く。


「お前ら元気だなぁ?」

『元気すぎますけどね…』

これくらいが丁度いいって、なんて言うもんだから2匹のお守りは彼に任せた。
私はその間に夕飯を作る。
買い物には行かなかったから、あり合わせになってしまうがしょうがない。
その事を謝れば、瑞希さんの料理は美味しいからなんでもいいと言われた。
なんだろう、このくすぐったい感じ……


食事中は雲雀さんの時と違って会話がある。
話してくれたのは例の組織にいた時の、ライとバーボンの話だ。
殺伐とした日常だったが、その中でも楽しいと思える瞬間はあったそうだ。
叶うなら、また3人で呑みたいなと溢していた。



『……勝手に貴方の運命を変えてしまって、ごめんなさい』

「謝るなといったはずだ。俺は今生きてることに感謝している」

『でも、前のように親しい人間に会えないのに……』

「いつか、会わせてくれるんだろう?気にすることはない」

『ありがとうございます………片付けはしておくので、お風呂入ったらどうです?』

「………じゃぁ、先に頂くよ」

彼はにっこり笑って風呂場に向かう。
私の涙腺がおかしくなる前に、席を立ってくれた彼に感謝する。
こんな情けない顔、誰にも見せられない。




早く泣き止まなければと、一心不乱に片付けをする私の姿はさぞ滑稽だったろうな…






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