カーテンの隙間から入る光が顔に当たり、夜が明けた事に気づく。
スマホを手に取り正確な時間を確認すれば、8時を回ったところだった。
まだ起きるのは早いかと思ったが、一応彼が起きているかの確認だけはしておこうとベッドからおりる。


『……早くないですか』

「瑞希さんこそ早いね。おはよう」

『……おはようございます』

リビングのドアを開ければすでに彼は起きていて、優雅にテレビをみていた。
コーヒーが手元にあれば休日のお父さんの完成だ。
……残念ながらうちにはまだコーヒーは置いてない。
エスプレッソ好きの赤ん坊が訪ねてくる予定でもあれば準備していたんだろうが、生憎そんな予定はない。


『もう暇してるならアジト行きません?向こうになら食べるものあると思うし……』

「確かに買い物行ってそこから作るよりはマシか……もう出るか?」

『出ましょう。お腹すいた』

「じゃあちょっと待っててくれ」

彼が上着とスマホを取りに行っている間に、私は紅桜鬼で髪をまとめる。
普通の簪だと髪の捻り具合や差し込む場所によっては、髪を引っ張りすぎて痛いなんてよくあった。
でも、流石ボンゴレギア。
髪型が乱れることもないし、何よりつけている感覚が少ない。
もうずっとつけているような、自分のからだの一部のような感覚だ。
まぁ、守護者がリング……形は変わったが、持ち歩かないと言う選択肢はない。
それに、私がコレを扱えていると言うことは守護者であるということ。
ある意味、精神安定剤にもなっている。

洗面所の鏡の前で髪にささったボンゴレギアを眺めていれば、準備を終えたネフライト声をかけられた。
玄関に向かえば、車の鍵を指でくるくると回している。



『今日も運転お願いします』

「おう、任せろ」

『場所知ってましたっけ』

「……案内頼みます」

『了解です』

かっこつかねーとがっくりする彼の運転で杯戸町にあるアジトに向かった。







* * * * * *


「珍しく瑞希様が朝早くから行動していると思えば……これのためだったのですね……」

呆れたように言葉を吐くアメジストの視線の先には、朝食にがっつく私とネフライトの姿。



『でも、朝食を準備してるあなたも流石よ』

「光栄です。それで、本日はどのようなご用件で?」

『あぁ、ネフライトの部屋の確保と変装だな』

「なるほど、そういうことですか……部屋でしたら幹部用の部屋が空いていますね」

『んじゃ、後で案内してやってくれ。変装は……朝食後な』


後の話は朝食後!と言わんばかりにパンケーキを口に頬張る。
アメジストは料理が苦手だが、パンケーキだけは絶品。
なんでも、一番の好物は美味しいものを好きなときに好きなだけ食べたいからと言うなんとも自分の欲に忠実な理由でだ。
そのお陰で私も美味しい思いをさせてもらっている訳だが。


朝食後、ネフライトの変装について3人で話し合う。
まぁ、主に喋っているのは私とアメジストだけなのだが。


「やっぱりイケメンにしましょうよ」

『チャラいイケメンは嫌よ。そもそも、ネフライト元は悪くないんだから大幅に変えなくてもいいでしょう』

「私、髭がない方が好み」

『あーそれは分からんでもない』

「お2人とも、それはちょっと傷付く……」

『まぁ、私らの好みはおいといて。細かいところはアメジストに任せるよ』

「では、腕によりをかけてイケメンに仕上げましょう」

『……街中歩いてても浮かない程度に頼む』


アメジストの好みのイケメンにされると、どんなことになるのか目に見えている。
変に目立っては意味がないのでそこら辺は配慮願いたい。
まぁ彼女ならそこら辺もわきまえているから大丈夫だろう。
完成まで私は他の仕事でもしましょうと、デスクにおいてあるパソコンを開いた。



「瑞希様、完成しました!!自信作です!!」

『………イケメンだけどなんか何処かで見たことある顔』

「真昼様の兄という設定です。これならいつでも接触できますよ!!」

『確かに、組織の人間が近くにいた方が便利なときもあるが……演技大丈夫か?』

「大丈夫ですよ。彼、兄みたいに面倒見いいですから」

『そんなんでいいのかよ……まぁよろしくね、兄さん?』

「よろしくな」


お披露目が終わったところで、正面左右と写真を撮られている。
ここからはネフライトが1人で変装できるように練習するらしい。
まぁそこまで不器用ではないだろうから何回かすれば慣れるだろう。
その間、私は彼の名前を考える。
真昼ときたら深夜としたいのは山々だが……流石にないよな。
よし、2人に判断させよう。


『なぁなぁネフライトの偽名だけどさ、柊深夜と柊旭、どっちがいい?』

「俺旭の方がいい」

「でも真昼の兄なら深夜の方がイメージよ」

『…決まらねーじゃねぇか。まぁでも名乗るのはネフライトだからな…旭にする?』

「おう」

『じゃぁ旭兄さんね』


じゃぁ細々とした設定は決まったら教えてといい、私だけアジトを出る。
バスも電車もようわからんから、結局タクシー。




…………明日はちゃんと学校に行こう。





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