扉を開けた先にいたのは険しい表情を浮かべ、腕時計型麻酔銃をつけたコナン君だ。
その事に関してなにも言わず笑って見せた私に、更に警戒心を強めたようだ。



「……ボクが起きているのが不思議じゃないの?」

『まぁね。きっと私に聞きたいことがあるんじゃないかと思ったから君がここにくるように仕向けたの』

「………お姉さんはボク達の……敵?味方?」

『コナン君はどっちだと思う?』

「ボクには……悪い人には見えない」

『ふふっ………残念だけど、それは間違ってるよ』



そう言えば、驚きとやってしまったというような表情を浮かべる。
冷や汗をかきながら、言葉を選んでいるようだ。



『君はもっと危機感をもったほうがいいよ、工藤新一君?』

「な、なんのこと?ボクが新一兄ちゃんなわけないでしょ?」

『……君は蘭と行ったトロピカルランドでアポトキシン4869を飲まされて、今の姿になったのよね?』

「……何故そこまで知っている」

『それは企業秘密。でも、君達を傷付けに来たんじゃない』

「じゃぁ……どうして……」



『………誰も自分を見ていないって、結構辛いことだと思うのよ』



そう言葉を溢せば、心当たりがあるのかピクリと肩が揺れる。
いつもは余裕な色を浮かべる瞳も、鳴りを潜めて寂しげな色を浮かべている。
例え身近に自分の正体を知っている人がいたとしても、彼にとっては守るべき人達なんだろう。
どんなに自分が辛い時でも、余裕そうな笑みを浮かべて相手を安心させる。
そんな彼に、手を差し伸べずにはいられない。



『君は、君を取り巻くすべての人を守ろうとする。それは凄いことだし、中々できることじゃない。でもね?その守るものの中に自分もいれてあげなきゃ』

「………俺は、自分の命を粗末に扱ったつもりはねぇよ」

『それでも無茶をするのは感心しない』

「っじゃぁ、どうしろと………!」


苛ついたように声を出す彼に手を伸ばし、そのまま抱きしめる。
いつだったか、雲雀さんがしてくれたように。


『彼等をどうしても守りたいなら………私を頼ればいい。君が彼等を守れるように、手を貸してあげる』

「どうしてそこまで………」

『友人を守るのに、理由なんてないわ』


そういえば、遠慮がちに服を握ってきた
心が休めるように、落ち着かせるように頭を撫でる。

暫くその体制でいれば寝息が聞こえてきた。
起こさないように抱えてベッドに運び、私はそのままベランダに出る。



『………少しは助けになれたかな?』

そう呟いて、本当にそうだったらいいなと思う。
手すりの上に座って夜空を見上げる。
そのまま右手をあげても、星なんて掴めない。
そんなことは分かってる。
でも、人間という生き物は分かっていても手を伸ばしてしまうもの。
掴めないものばかりを求めてしまう。
あぁ、私が望むものは何だっただろう……



『……………っ!?』


そんな馬鹿なことを考えていたせいで、スマホのバイブレーションにさえビクついてしまった。
液晶に表示された文字は、最近変更した名前が表示されている。


『もしもし?』

「あぁ、やっぱ起きてたな」

『旭…兄さん……』

「お?もうそう呼んでくれるのか?」

『慣れておかないとボロが出そうだから…………それよりどうしたの?こんな時間に』

「特に用は無いんだが………お前がまた変なこと考えてないかと思ってな」


本当になんなんだ………タイミングよく電話してくるなんて。
ヒロインのピンチに駆けつけるヒーローみたいじゃないか。
まぁ私はヒロインなんて可愛らしいものじゃないが。


『………大丈夫。今日は今の友人たちが泊まりに来てるんだ』

「そうか。ならいいが、寝られなくてもちゃんと横になるんだぞ」

『過保護な兄さんね………でもありがとう』

「……すぐにでもお前と接触するからな」

『早くない?』

「お前が無茶してそうだからな。これで外でも気軽に話せる人間ができるだろ?」

『無茶をしてるつもりはないんだけどな……でも、楽しみにしてる』

「あぁ。じゃぁ、おやすみ」

『おやすみなさい』


通話を終了しました、と表示されている。液晶が暗くなるまで眺めていたが、横になるかと思い部屋に戻る。
ベッドを見れば、スヤスヤと眠り続けるコナン君の姿。
見た目小学生でも、実際は高校生で好きな女の子がいる男の子だ。
流石にそのまま横になるのもなぁと思ってしまい、彼の足元に本来の向きとは90度回転させた体制で横になる。
横向きに寝ても問題ない自分の身長に溜め息が出る。


気にするな、ベッドが大きいだけだと納得させて目を閉じた。






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