「まったく……勝手に何処かに行ったかと思えばいきなり戻ってきて美術室の前で待ってろなんて言うんだから…」

『私はコナン君に頼まれただけ。幽霊騒動の犯人が分かるって言ってたから』

「で、がきんちょは何処に行ったの?」

「あ、来た来た!」

「どこに行ってたんだい?」

「うん、ちょっと……」


新出先生の問いかけに曖昧な返事しかせず、いきなり美術室の扉をガラっと開ける。
勝手に入り込んで勝手に質問をするのはいつものようね。




「ねぇ、お兄さんって帰り仕度してる?」

「あ、あぁ……すぐに帰れるようにここに持って来てあるよ…」



「オウ!邪魔するぜ……」

「せ、世古!?何でここに?」

「このガキがここに来れば幽霊騒動の犯人が分かるって言うから来たんだよ。話が長くなるかもしれねーから帰り仕度を、整えて来てくれってな!」

「あら、私もよ…」

「か、数美先輩!?……うわっ!先輩の傘泥だらけ……」

「そうなのよ!朝、天気予報を見て慌ててひっつかんで来ちゃったのよ……子供の頃使ってた古い傘………」


今回の幽霊騒動の関係者であろう2人も順番に顔をだす。
コナン君の目論見通り、例のものを手にもって……
そして、じっとなにかを見つめ動かないコナン君に蘭がこっそり声をかけるが反応を示さず、口角をあげた。


「んで?幽霊騒動を起こした犯人は何処にいるのよ?」

「ここに来れば分かるって伝えてって真昼に言ったんだよね?コナン君…」

「うん!その幽霊騒ぎって、2年前に階段から落ちて亡くなった保坂って生徒さんの霊の仕業ってウワサされてるんだよね?」

「え、えぇ……」

「その階段は美術室のそばのこの階段………だったら、身を潜めてずーっと待ってればいいじゃない!」

「ま、待ってるって、なにを?」

「もっちろん!」

「『その保坂って人の怨霊が……シトシト階段を降りて来るのをだよ…………』」



私とコナン君で恐ろしい顔をしてそう言えば、コナン君は園子に私は蘭にそれぞれ拳骨を落とされた。


「ってえぇぇ」
『い"っ…』

「だーかーらー、私達は、霊の仕業に見せ掛けてる悪い人間を捕まえようって言ってんの!」
「真昼もそんな恐ろしい顔して言わないで!!」


『そんな本気で殴ることないでしょ…脳細胞が大分死んだよ、これ………』


本気で殴られた私とコナン君は頭をさする。
アホなことをしていたせいか、先輩達3人も帰ろうとする。
きっと園子を麻酔銃で眠らせ、推理ショーをするものだと思ってコナンに目を向ければ、私に照準を合わせている。
嘘でしょ!?と目を見開けば、ニヤリと笑って撃ってきた。


首にチクッとした痛みの後、一瞬意識が飛びかけたが、私が眠ることはなくて物凄く驚いている。
唖然としたままのコナン君にこっそり話しかける。


『残念だけど、私にそういったものは効かないよ?』

「これ象でも眠る強力なやつだぞ!?」

『……それ、犯罪って気付いてる?』

「んなことよりどーすんだよ!!」

『自分のこと棚にあげやがった……まぁいいや、私が喋るから手助けしてね?』

「え!?」


驚くコナン君を横目に、3人の先輩を引き止めるために話し出す。


『まぁまぁ、帰るのは幽霊騒動を起こした犯人を見付けてからにしましょう?』

「え、わかったの!?」

『勿論!とっても簡単なトリックだったからね』

「じゃぁ、分かったんですか?ぬかるんだ中庭に足跡もなく置かれたあの机とイスの謎が……しかも机の上には全く濡れていない紙が置いてあって……雨がやんだ後に運んだとしか思えないのに、どうして足跡がなかったんですか?」

『その濡れてなかった紙…それに惑わされてすっかり忘れてたんだけど……雨が降っている最中に机とイスを運んでも、雨がその足跡を消してくれるって事をね。ほら、あの時の雨ってにわか雨だったけどどしゃ降りだったでしょ?』

「確かに、あれだけ強い雨なら足跡は消えるかもしれないけど……机の上の紙もビショビショに濡れちゃうんじゃないの?」

『じゃぁ濡れたくなかったら、園子達はどうすんの?』

「そりゃー雨宿りをするか…」

「雨ガッパを着るか……」

「それか、傘をさすよね!!」



中々答えが出てこないことに、コナン君がしびれを切らしたのか、代わりに答えを言う。
これ、説明するの大変だわ……コナン君よくやるよ。


『そう、犯人は紙が濡れないように覆い被せてたの……長いヒモを取り付けた傘をね。雨が止んだ後、そのヒモを引っ張って傘を取り込めば、ぬかるんだ中庭に足跡をつけずに乾いた紙をのせた机を出現させられるって訳よ』

「中庭に、ちゃんと残ってたよ?ヒモを引っ張って傘を取り込んだ時に、傘の骨の先端が地面に接触した跡が!それに、中庭から校舎に入ったところに敷いてあるスノコに水をまいた様な跡が残ってたのが証拠だよ。あれって、回収した傘を振って雨水を切った跡だよね」

『でもそれだけじゃ完全に雨水を振り払うことはできない。時間がたてばしみ出てくるよ』

「じゃ、じゃぁ、幽霊騒動を起こした犯人って、もしかして………」

「先端から雨水がしみ出ている傘の持ち主の……世古国繁さんだよね?」


あ、この野郎いいとこ持っていきやがった。
別に構わないけどさ、それならもう最後まで話せよって視線で訴えかければ、冷や汗を垂らしながらも話してくれた。
まぁ時折、そうだよね、真昼姉ちゃん?と言ってくる。
なんで私が言わせてるみたいになってんだよ……別にいいけども。

私が覚えてたことっていえば、傘を使ったこととあの世古って先輩の仕業ってことだけ。
本のことも、氷を取りに帰れるってことも覚えてなかったし、あのタイミングでバトンタッチ出来ててよかったと思う。


もう曖昧な記憶で口挟むことはしないでおこう、うん。






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