ダニーズから車で20分ほどでマンションについた。
もう結構遅い時間だから、早くお風呂に入って寝たい。


「駐車場に車止めてくるから先上がってていいぞ」

『いや、鍵ないでしょ?』

「あー……確かに」

『エントランスで待ってる』

「悪いな。すぐ止めてくる」


地下の駐車場に車が入るのと同時に、エントランスに向かって歩きだす。
すると、背後から光に照らされたのか、夜に見ることのない影が現れる。
邪魔になってはいけないと端に寄ったのに、クラクションを鳴らされた。
無視して歩き続ければいいのに、振り返ってしまい頭を抱える。


「こんばんは、真昼さん」

『安室さん……?』

驚いたことに、車の運転手は安室さんだった。
うん、振り返ってよかったと思う。
数分前の自分、ぐっじょぶ。


『安室さんが車に乗ってるとこ初めて見ました……って、まだ2回しか会ってないから当たり前ですよね』

「僕が歩くなんて滅多にないんですよ。この前は車検に出してまして……泣く泣く歩いてたって訳です」

『そうだったんですね。それより、こんな時間にどうしたんですか?』

「ちょっと仕事で遅くなってしまいまして……真昼さんこそどうしてこんな時間に?またあんな目に遭いたいんですか?」


「…真昼?」

ちょっと語尾が強くなった安室さんの言葉に慌てて返事をしようとしたが別の声が言葉を被せてきた。
そこでハッとして、この2人をここで会わせても良いのだろうか………とそんな心配をする私をよそに、2人は会話を始めてしまった。


「彼女と随分親しげですね?」

「兄ですからね。柊旭といいます」

「これは失礼しました、僕は安室透といいます」

「それで……安室さんはいつ真昼と知り合ったんですか?」

「あぁ、彼女が誰かにつけられていたところにたまたま居合わせただけですよ?まぁその後はご自宅まで送り届けましたけど」

「……真昼、聞いてないぞ」

『いや、あれ以来ないし……忘れてた』


なんだろう、すごく居心地が悪い。
何で言わないんだという視線とどうして言ってないんだという視線が襲ってくる。
兄さんとやら、私が不審者ごときに何かされるとでもお思いで?
なんて思っても口に出せる訳もなく。


「悪いな、助けてもらって」

「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」

「ありがとう。迷惑でなければ妹をよろしく。あと、これ俺の番号だ。よければ受け取ってくれ」

「迷惑なんて思わないですよ。そうだ、真昼さんの番号も教えていただけますか?前回は聞きそびれていたので」

『あ、はい』


蚊帳の外、の扱いだったのにいきなり話しかけられて思わず返事をしてしまった。
というより……兄さん番号渡すのね。
思わぬ再会で嬉しいのは分かるんだけど……まぁいいか。
そして私も流れるように、安室さんの番号をゲットしてしまった。
もともと、この人のトリプルフェイスはどれも好きだったけどね?
なんだろう、道端で思わぬレアアイテムを拾ったような嬉しさ。
口許が笑いそうになるのを必死にこらえる。

あれから少しして安室さんの遅い時間に引き留めてすいません、と言う言葉で別れた。


『……何であのタイミングで接触したの?しかも途中からため口になってるし』

「つい……な、まだ上手くやれているようで良かった。あと、少し嬉しかったんだ」

『ごめんなさい……責めているような言葉になってた』

「気にするなって言ってんのにな………」

言葉を返せなくなった私の頭にポンと手が置かれる。
でもそれも一瞬で、ほら行くぞと言われて何事もなかったように後を追う。
行くぞ、なんてかっこよく決めたつもりでしょうけど、私が行かなきゃ入れないからね?
肝心なところでかっこつかないんだから……と思うと少し可笑しかった。






部屋について、順番にシャワーを浴びる。
私は後はもう寝るだけ……と思いながらもソファで寛ぐ。
一応彼を待っているのだが、もう眠いとソファに寝転がってしまった。



『待ってろって言ったくせに、おせーよ』


「悪かったな」


まさか一人言に返事があるとは思わなかった。
咄嗟に早かったですね、なんて取り繕うとしたが、できなかった。
うん、当然だ。


『ところで、何で待ってろなんて言ったんですか?』

「あぁ……俺の設定覚えてるかどうかの確認だ。中途半端だと零に悟られかねないからな」

『……外でうっかりその名前言わないようにしてよね。確か………会社員だっけ』

「……表向きはな。SISMIで、今は休暇中という扱いだ」

『私の名前使ったな』

「お陰ですぐに許可が貰えたよ」

『まぁ無いとは思うけど、その肩書き使って変なことしないでよ。私にとって大切なコネクションなんだから』

「あぁ、気を付ける。まぁ話はこれだけだ。お前既に船漕いでるからな……これ以上話しても何も覚えてそうにないし」

『………さーせん。あ、客間に布団あるから勝手に使って』


とうとう買ったんだなと言う彼にろくな返事が出来ないまま目を閉じた。
微かに聞こえたおやすみと言う言葉に心の中で返事をした。
明日の朝は、私からおはようと言いたい。







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