夏休みも中盤に差し掛かった頃、園子の思い付きによって海に連れ出されることになった。
今日はその前日で、月白鬼のアジトにある自室でだれている。


『焼けたくないなーでも日焼け止めもめんどくさい……でも泳ぎたい……』

「瑞希様?日焼け止めだけは塗ってくださいね。あ、水着の準備は出来ましたので」

『パーカーは?』

「丈の長い白を1着ご用意しております」


これで明日の準備は完璧だ。
まぁ私は何もやってないんだけど……あ、口は出したな。
海なんて………中学以来か。
あん時のバイトの先輩だっけ?あの男共は最悪だったな。
まぁでもコナン君は一緒に行動しないから事件に遭遇する確率は低いと見積もっていいだろう。
とりあえず、夏休みの思い出作りといきますか。







* * * * * *



翌朝、珍しく早起きした私は待ち合わせ場所である米花駅の前で2人が来るのを待っている。
別に今さら園子が電車に乗ることが意外だなんて思わない。
にしても、2人共珍しく遅いなとスマホを取り出して時間を確認すると同時に、着信を知らせる画面に切り替わる。



『もしもし?』

「おはようございます、真昼さん。安室です。今、少しよろしいですか?」

『おはようございます。大丈夫ですよ』

「突然で申し訳ないんですが、今日か明日、一緒に出掛けませんか?」


吃驚しすぎて、声もでなかった。
まさか、彼からこんな誘いを受けるとは。
もしかしたら、先日の私達に何か違和感を感じて接触してきたのだろうか。
それはそれで面白いだろうから、受けてたつ!と意気込みたいところだが………
ただ部屋でだれているだけの日であれば、すぐに行きますと返事をしただろう。
でも今日も明日も先約がある。
他の日に予定なんてないのに、どうしてこうも同じ日に誘いがくるのだろう。


『ごめんなさい……凄く行きたいんですけど、友人達と海に行く予定で帰るのは明日の夕方近くになるかと……』

「いえ、此方こそいきなりですみません……よろしければ、明日お迎えにいきますよ。その後夕飯を一緒にどうです?」

『………行きます』

「ではまた明日連絡します」

『分かりました』


思わぬ誘いに顔が緩んでいれば、横から肩を叩かれた。
そこにいたのは園子で、いつまで電話してるのよ!と怒られた。
蘭は先に切符を買いに行ったようだ。



「あ、真昼の電話終わったの?」

「今終わったとこよ」

『そんなに長かった?』

「10分ぐらいよ。で、相手は?何か約束していたようだけど」

『……まぁまぁ気にしなさんな。ほら、電車来る時間じゃないの?』

「まぁいいわ………それより海よ!!イケメンよ!!」


園子はそれ以外に考えることはないのかと頭を抱える。
まぁでもいいか、本当にイケメンだったら目の保養にもなるしな。
でも………


「園子、ほどほどにね……」

『蘭、きっと聞こえてないよ。園子の心は砂浜に打ち上げられた小瓶のようにイケメンを待ってるわ』

「ごめん、分からない」

『………私も分からない。忘れて。てか、本当にホームにいかないと乗り遅れそうよ』

「もうそんな時間?園子、行くよ!!」


心此処にあらずの園子を連れて早足でホームに向かうも、階段を降りたところで出発のベルが聞こえてきた。
幸い、ドアに近いところだったので何とか乗り込むことができた。



『なんで海につく前に走らなきゃいけないのよ………』

「そういうのも青春よ!」

「電車に駆け込むなんてよくありそうだけど……」

「細かいことは気にしないの!」


青春か………それを理由に楽しむのもいいかもしれないね。
未だに青春だなんだ言っている友人を見て、少し笑った。







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