夏の海と言えば、白い砂浜に輝く太陽、寄せて返す波……といった表現があるが、そこに是非調子に乗った軽い男も付け加えた方がいいと思う。
とまぁ何故こんなことを思っているのかというと、蘭と園子に話しかける男が目に入ったのだ。
夏で気が大きくなっている男子大学生って所だろうか。
しかもさっきから"……っていうか"を連発している。
まぁ手を出せば蘭が黙っていないだろうし、あの男が離れるまでやり過ごそうと思っていれば、あろうことか目が合ってしまった。
目の前の男の挙動を不審に思い、こちらを振り返った園子と蘭が私に気付き、手を振ってくる。
巻き込むなよ………と思いつつ、彼女たちに歩み寄る。
「もー何やってたのよ、真昼」
『いや、パーカー置いてくるって言った……』
「まぁいいわ。それよりこの人、あんたに用があるみたいよ?」
『………何か?』
「さっき遠目に見ただけなんだけど、君やっぱり可愛いね!!どう?お友だちも一緒に俺等と遊ばない?っていうか遊ぼうよ!!」
えー嫌よ、迷うことなく即答するわ。
と思って、否定的な言葉を吐き出そうとすれば、園子に口を塞がれた。
何すんだという意味を込めて視線を向ければ、何断ろうとしてんのよと小さい声で言われた。
『逆になんで断ったらいけないのよ………』
「年上の男なんて、滅多にチャンス無いんだから!!それに彼の友達、イケメンなのよ!!」
『えぇー……ナンパはお断り………』
「この子もオッケーだって!」
「お?ノリいいじゃん。向こうに皆いるから行こうぜ」
おい、結局私の意見は無視か。
園子はノリノリで彼……見山って人についていく。
蘭は私と同じくあまり乗り気ではない。
『あのさ、園子ってイケメンなら誘拐犯にもホイホイついていきそうなんだけどさ、大丈夫なの?てか、彼氏いるんだよね?別れたの?』
「まぁ……イケメン好きだけど、悪い人にはついていかないと思うよ?誘拐もされたことないはずだし。あと、別れてないわよ」
『まじか………いや、園子の場合どっちでも驚くわ。彼氏がいるのにイケメン漁るんだ』
正直、彼女の立場からいって誘拐されていてもおかしくはないだろうと思っていた。
一般人に紛れて生活を送るお嬢様なんて、格好の餌食だと思っていたのだが……
まぁ、そんな目に遭わないのが1番いいんだけど。
そして園子は彼氏がいようともイケメン好きというのが私の中で確定した。
「真昼ちゃーん!!こっちこっち!!」
「2人共早く来なさいよー!」
『おいこら、何勝手に名前呼んでんだよ……』
「真昼……性格変わってない……?とりあえず、落ち着いて……」
『私元々こんなんよ。それに、落ち着いてる。しょうがないから、園子のイケメンあさりに付き合ってあげようじゃない』
少し離れたところにいる2人の周りには、見たことない人物が立っていた。
正直、彼らが誰だろうとどうでもいい。
1人だけいる女性はどうやら、私達を此処に連れてきたナンパ野郎の彼女らしい。
そして何故か私だけ敵意を向けられる。
『…………園子、蘭、悪いけど先にホテル戻ってるわ』
「え、どうしたの?具合悪いの?」
『……ちょっと寝不足なだけ。気にしないで、2人は遊んでなよ』
「じゃぁ俺がホテルまで送っていこうか?」
私がホテルに戻ると言えば、園子がイケメンと騒いでいた嘉納?さんがそう声をかけてきた。
園子と蘭にも送ってもらいなよと言われたが、冗談じゃない。
『結構です。1人で戻れるので。じゃぁ園子、蘭、また後でね』
「あ、うん……」
「気を付けてね」
2人の私を気遣う言葉に振り向かず右手をあげてこたえる。
正直、初対面の人たちにあの態度はどうかと思ったし、残された彼女達のあの場の空気も微妙なものになると分かってはいた。
それでも、あれ以上あそこにいることが耐えられなかった。
1度しかない夏を楽しみたい気分はわかる。
でも、私はそのノリについていけない。
こればっかりは、どれだけ時を過ごそうとも受け入れられなかった。
『……こんなんでよくやってこれたよな、私』
誰に言うわけでもなく、不意に口から溢れた言葉に呆れる。
もう、何も考えまい。
寝不足だったから、おかしな方向に思考がいってしまうのだ。
そう結論付けた私は、部屋に戻りそのままベッドに倒れ込んだ。
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