16時少し前には米花駅に到着した。
園子は、安室さんを一目見ようとついてくる気満々で、正直焦った。
今ここで彼女たちを接触させてしまうと、後々来るであろうウエディング・イヴの時に矛盾が生じてしまう。
どうするべきか……と頭を悩ませていれば、蘭が邪魔しちゃ悪いわと園子を引っ張っていってくれた。
あぁ、でもきっと次会ったとき根掘り葉掘り聞かれるんだろうな。


そんなことを思いながら駅を出て、安室さんを探す。
首を大きく動かせないため、探すのも一苦労だ。
結局自力で見つけられないまま、待ち合わせ時間の16時になってしまった。
もういいやと周囲の気配を探れば、背後から私に向かってくる人物がいる。
何となく、後ろを取られるのが嫌になった私は声をかけられるよりも、肩を叩かれるよりも先に振り向いた。



『こんにちは、安室さん』

「よく、僕だって分かりましたね」

『私に話しかけようとする人なんて滅多にいないですからね』

「………まぁ、行きましょうか。向こうに車止めてありますから」

『その間は何ですか……』


気にしないでくださいと笑いながら言われる。
そういわれると逆に気になるんだけどな……と思いながらも後を追いかける。
彼の車は、何処かの道端に停めているかと思っていたが駅に隣接する駐車場に停められていた。


『もしかして、早い時間から待ってました?』

「ちょっとこの辺で用があっただけですよ。それより、ディナーには時間が少し早いですね……どうです?少しドライブしませんか?」

『します』

「即答ですね……それに目が輝いてますよ」

『そんなにあからさまでした?………でも私は運転できないんで乗ってるだけなってしまいますけど』

「僕は運転が好きですから気にしないでください。それに、この車に貴女のような女性を迎えられて、これでも舞い上がってるんですよ?」

『子供相手に何言ってるんですか……』


素敵な女性に子どもも大人もありませんよと言いながら助手席のドアを開ける彼は、まさに紳士で安室透だ。
流石だな、と思う。
促されるまま助手席に乗り込めば、荷物は後部座席にと持っていかれてしまった
まぁ大したものは入っていないから、特に問題はないのだけど。


「それで?真昼さん、その首どうしたんです?」

『え?』

「とぼけても無駄ですよ?」


正直、気付かれていないと思っていた。
まさか車に乗り込んで早々に指摘されるとは思っていなかった。
この調子じゃ柊旭の正体がばれてもおかしくないな……


『いつ気付いたんですか?』

「確証を得たのは車に乗り込んだときです。一瞬、動きが止まりましたよ?」

『流石ですね』

「こら、話をそらさない」

『…………まぁ色々あって犯人の持っていたナイフで切れてしまったんです』


正直に話してみたが、反応がない。
恐る恐る運転席に座る彼の方を向けば、驚いた表情をしたまま固まっていた。
安室さん?と名前を呼べば、徐に私の首に巻かれているストールに手を伸ばしてくるが届く前に手をおろした。
怪我の具合を気にしてるのかと思った私は自らストールをとる。



『見た目ほど傷は酷くないので、大丈夫ですよ?』

「女の子なんですから、あまり無茶はしないでください」

『そんなこと言うのは…………安室さんぐらいですよ』

「そんなことはないと思いますけどね………まぁ大したことないなら良かったです」


そういうと私の言葉を待たないまま、出発しますよとエンジンをかけた。
楽しみだと思っていたドライブは、上辺だけの会話にどこか居心地の悪さを感じていた。






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