今、高校生をしている瑞希さんが友人たちと泊まりで海に行くというので、代わりにアダムとイヴの世話を引き受けた。
初めてこの子達をみたときは吃驚したし、恐怖を感じたが、すぐにそんな事はないと認識を改めた。



「お前たちは本当に瑞希さんが好きなんだな……」


そういえば、当たり前だというように喉をならす。
言い方は悪いが、この子達は兵器を作る過程で偶然できたものらしい。
本来なら処分されるはずだったということを聞いた。
だが彼女はそれを良しとせず、自ら引き取った。
そして、無闇矢鱈に人を襲わないようしつけたらしい。


酒の名前をコードネームとしている組織など、足元にも及ばない程に巨大な組織を纏めあげている彼女。



「本当に、何者なんだか……」


そう呟きながらアダムとイヴの喉を撫でていれば、ガチャガチャと乱暴に玄関の扉を開ける音がした。
おそらく瑞希さん……真昼が帰ってきたのだろう。
アダムは己の主人を出迎えに玄関に走っていった。

本当に好きなんだな……と思いながら俺も玄関に向かう。
疲れたーと愚痴りながらアダムに荷物を預ける彼女がいると思ったが………




「お前………顔赤いけどどうかしたのか?」

『な、なんでもない!………アダムおいで』

「あ、おい……!」


正直、彼女のあんな恥じらうような顔は初めて見た。
あれはまさしく……恋する乙女?
相手は誰だ……?彼女にあんな顔をさせるのは……
娘なんていないが、何処ぞの男に娘を取られた父親の気持ちが分かったような気がする……いや、俺は兄だ。
一応三十路前だからそこまで親父臭くない……はずだ。


残された俺はイヴを無心に撫でながら自分に言い聞かせていた。







* * * * * *



『……あさ』


なんか起きるのが億劫で、アダムに回してる腕に力を込める。
首に抱きついていたせいか、苦しそうな声をあげたのですぐに解放する。
アダムはそのままベッドを降りてリビングに向かった。
器用に扉の開け閉めまで行って………
いつもならすぐに追いかけるんだが、出来なかった。
部屋の外に誰かがいると思えば尚更。



『別に何をしたわけでもないのに………』


何故か、今は誰とも顔を合わせづらい。
彼の横で呑気に寝てしまったことに、戸惑いを隠せない。
そして、昨日の事というか彼の事を思い出せば、心なしか鼓動が早い気がする。



『もしかして………』

1つの答えを導き出しそうになったので、考えるのをやめた。
それは欲しい答えじゃないし、1番あってはならない。
きっと、本名を呼ぶのを許されたからだ。
画面の外から見ていた時は赤井秀一と並んで熱をあげていたのだ。
こうなってしまうのも無理ない、うん。
そう自分を納得させ、寝室を出た。




「おはよう、真昼」

『おはよう…………いいにおい』

「簡単だが文句は言うなよ。顔洗ってきたら一緒に食べよう」

『うん』


彼の言うがまま、洗面所に向かう。
顔を洗ったらスッキリするはずだ。
それにまだ夏休み………気持ちを落ち着かせるには十分だ。
鏡を見て私は神流瑞希、そして柊真昼と言い聞かせてリビングに戻った。



「『いただきます』」


2人揃って手を合わせる。
最初は特に会話はなかったが、不意に目の前の彼が言葉を発した。


「なぁ、昨日なにがあったんだ?首も怪我してるみたいだし」

『あぁ……首は海でちょっとね。すぐ治すから気にしないで。あと、昨日のは忘れて』

「忘れてって………お前のあんな顔初めて見たぞ」

『大丈夫、もうあんな顔することないから』

「…………そうか」


何か言いたげな目をしているがそれ以上は聞かずに飲み込んでくれる。
それが本当に、ありがたい。
その代わり……と言うのもおかしいが、どうして首を怪我したのかを正直に話した。


小言を言われるのは覚悟していたが、大目玉を食らうなんて想定外だった………







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