乗り込んだ車を運転していたのは兄の旭。
杯戸公園に迎えに来てっていうのだけであの場所に、あのタイミングで現れるのは流石だと思う。
『ありがとう、迎え』
「いいさ……それよりいいのか?FBIに俺の存在知られて」
『あぁ……阿笠博士と哀ちゃんに貴方がSISMIだって伝えたから、探りが入るかもね』
「………お前、楽しんでるだろ」
『ふっ………FBIには私らの事とラピスラズリについて、警戒してもらわないとね』
「お前な……敵なのか味方なのかはっきりしてやれよ…………」
ストラダーレを操りながら、呆れたように言葉を吐く彼。
でもその表情には少し笑顔が混じっている。
『そういう貴方だって、ちょっと楽しんでるように見えるよ?』
「そう見えるか?」
『うん、悪い顔してる』
「それはお互い様だろう?ライは本当に優秀だったからな。どれだけお前を翻弄させるか楽しみだ」
『シトリンの想い人だからって、手加減するつもりはない』
今は遠い地にいる彼女を思う。
『ねぇ……シトリンと赤井秀一が再会したとき……一緒に居ることを望むかな?』
「どうだろうな……こればっかりは本人達次第だろ」
『それもそっか』
そう言いつつも2人には一緒にいてほしいと勝手に思ってる。
幸せに……今度こそ、本当の恋人として付き合ってくれと。
「それより、これからどうするんだ。このまま帰宅ってわけでもないだろう?」
『一旦、月白鬼のアジトに戻る。アメジストに頼みたいこともあるし』
「ここからならすぐだな」
窓の外に目をやれば、近くに見えるアジト。
この調子だと5分ぐらいで着くなと予想をつけた。
「瑞希様、おかえりなさいませ」
『アメジスト丁度よかった。お前に頼みたいことがあるんだ』
「………変装ですか?」
『あぁ……この写真の人物で造ってくれ』
「……!分かりました、すぐに取り掛かりましょう。最短で仕上げてみせます」
『頼む』
見せた写真に一瞬驚いたようだが、すぐに切り替える彼女。
さっき杯戸公園を出たから、そんなに時間の余裕はない。
奴らが米花町5丁目に向かう前に着いてなきゃいけないのだ。
私が焦っているのが伝わったのか、アメジストの手際もいつもより数段早い。
ものの10分で仕上げてしまった彼女には本当に感心する。
「瑞希様、完成です」
『………流石、いい仕事するね』
「ありがとうございます。それより、時間ないのでは?」
『あぁ、ネフライトは下か?』
「車を用意して待機しておりますよ」
『そうか、行ってくる』
「お気を付けて」
そういった彼女に右手を軽くあげ、背を向けて歩きだす。
エレベーター乗り込むが、1階に到着するのがこんなに待ち遠しいなんて思わなかった。
「………瑞希さんだよな?」
『当たり前でしょ?ていうか、今は真昼……でもないけど。それより、急いで米花町に向かって。毛利小五郎が阿笠博士の家を出たらしい』
「おいおい、それヤバイんじゃないか?」
『彼が事務所に辿り着くことはない。私が焦っているのは奴らより先に事務所に着かなきゃってことぐらいね』
急いで出発した車の中で今何が起きているのか、私が何をする予定なのかを話す。
匿われていた筈の毛利小五郎はFBIが到着する前に出ていったらしい。
同時刻にベルモットと思われていたキールはFBIの手に落ち……そして盗聴器と発信器を見つけた奴らはターゲットを変更。
米花町に向かっている。
杯戸町を通って米花町に向かっているなら、先に着くのは私たちの方だろう。
『貴方、ピッキング得意かしら?』
「まぁ普通の鍵なら開けられるが………まさかお前」
『じゃぁよろしくね?』
まさか住居侵入の手伝いをさせられるとは……と嘆いている。
私に捕まったのが運の尽きだと思って諦めるのねと言って笑い飛ばした。
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