無駄に広い廊下を進み、漸く綱吉の執務室に着いた。
私が右手を動かした途端に、やんわりとクロームが前に出てきて彼女が代わりに扉を叩く。
部屋の中から入室を許可する声が聞こえてからクロームが扉を開ける。


「待ってたよ、クローム、瑞希」

「ったく、10代目お待たせするんじゃねぇよ」

「ごめんなさい…ボス」

『時間通りのはずなんだけど』

「あぁ!?」


綱吉の右腕……嵐の守護者である獄寺隼人がいつものように私に小言をいってくる。
初代嵐の守護者であるGのような右腕を目指す彼は、最近落ち着いてきたかと思えば、たまに今までのような忠犬っぷりを発揮することがある。



「まぁまぁ、2人とも落ち着いて……それより瑞希。良く戻ってきてくれたね」

『……戻ってこないわけにはいかないでしょう』

「じゃぁ、お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」


満面の笑みを浮かべた綱吉に、私は顔をひきつらせるしかなかった。







* * * * * *



『………』


綱吉のお願いという名の命令である場所に向かっている。
同乗者はいないといっても、終始無言を通す私に運転手は居心地が悪そうだ。
でもこれくらいは多目に見て欲しい。
今から私が向かうのは、恐らく戦場になるであろうヴァリアーアジト。

あの城の主であるザンザスをどうにかしてパーティーに連れ出してこいというのが綱吉のお願いだ。

どう考えても生け贄にされた感が強い。
出来れば、準備中ですので待っていて下さい状態であればいいのだが、儚い望みで終わるだろう。


「……瑞希様、到着いたしました」

『分かってるわ……』


到着したなんて、言われなくても分かる。
運転手も普段は何も言わない……というか言われる前に私が声をかけるかドアを開けるかするので、言うタイミングがないといえばそれまでなのだが。
だが、あまりに私が動かないものだから、痺れを切らしたのだろう。
もう何にでもなれと、自棄になりながら車を降りて玄関に向かう。
まぁ玄関というより門に近いのだが……

扉を開ければ、エントランス中央の階段を降りてくるルッスーリアの姿が目に入る。


「あらぁ、瑞希じゃない!!こっちに戻ってたのねぇ」

『久しぶりー。だって招待状をディーノさんが持ってくるんだもん……』

「んまぁ…それは断れないわねぇ。でも、貴方が来てくれるなんてボスもきっと喜ぶわ〜」

『……じゃぁ聞くけど、準備始めてるの?』

「そんなわけないじゃなぁい。幹部も揃ってお手上げ状態だったのよ」

『じゃぁなんでパーティーを中止にしなかったんだ……』

「それは………まぁそんな事より!!ボスに会ってらっしゃいよ。貴女のその姿を見たらボスも行く気になるだろうから!」

『………それは暗に私に準備しろって言いに行けってことね』



細かいことは気にしちゃダメよ!なんていって背中を押される。
もともとそのつもりでもあったからいいんだが……素直に聞いてくれるかねぇ。







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