いつもであればこの扉を開けるのに何の戸惑いも無いんだけどなぁと他の部屋と比べて大きく、装飾の凝った扉を見つめる。
特に気配を消すこともせずにここまで来たのだ。
この部屋の主は直ぐに扉の前に誰か居ることに気付くだろう。
ここで躊躇して立ち尽くしてしまえば、彼の機嫌を損ねかねない。
もうどうにでもなれと扉をノックする。


「……入れ」


……なんだろう、いつもより割り増しで不機嫌そうな声がする。
まぁいきなり憤怒の炎やらグラスやらが飛んで来ることは無いだろうと扉を開ける。


『ザンザス……久しぶり』

「……瑞希か」

『うん』

「……連絡もなしに何処に行っていた」

『ちょっと日本に…』


そう正直に答えれば眉間のしわが増えたように見える。
お願いだからこれ以上機嫌悪くならないで!!と嘆くがザンザスに伝わるわけもない。
このままじっとしているわけにもいかず、早速本題にはいる。


『あのさ、ザンザス。そろそろ準備に取り掛かって……くれませんか?』

「……なんのだ」

『いや……貴方の誕生パーティーでしょう』

「……」

『お願いだから黙らないで……』


懇願するようにいえば、ふんと鼻で笑い立ち上がる。
どうやら準備を始めてくれたようなので私は大人しくソファに座って待つことにした。
とりあえず、開始時間には間に合いそうなのでほっとした。






* * * * * *


結局、間に合いそうだと思ったのは気のせいだった。
何だかんだで出発できたのはパーティーが始まる10分前。
ここから本部まで最低でも20分はかかる。
……完全に遅刻だわ。
とりあえず綱吉には遅れるって連絡は入れたが、あの忠犬が煩いだろうなと思えば、知らず知らずにうちにため息が出る。


「何ため息ついてんだ」

『いや、ザンザスのせいだからね?遅れて文句言われるの誰だと思ってんのよ』

「ふん、知るか」


えぇそうですか、そういうと思ってましたよ!!と内心毒づく。
なんか無性に腹が立ってしまい、窓の外を向いたまま無言を貫く。
でも直ぐに、このまま不機嫌な態度をとるのもどうかと思っていれば、ザンザスが私の頬に触れてきた。
驚いて振り向けば、なんとも形容しがたい表情をした顔がこちらをじっと見ていた。


「……機嫌直せ」

『え…いや、別にもう……いい』

「そうか…」


まさか、ザンザスがそんな事言うなんて思ってもみなかった。
それにさっきからずっと私の髪を弄ってくる。
くすぐったいなと思うが、別にやめて欲しいとは思わない。
まぁ機嫌がいつもより良さそうだからこのままそっとしておこう。






本部に到着して車から降りれば、何故かエスコートされる私。
ザンザスと私を先頭に、後ろからスクアーロ達幹部が続く。
会場の入り口を潜れば、やはり一気に注目を集める。
彼らの雰囲気に震える者、媚を売りたい者、気に入られようと躍起になる者と様々だ。

今私が1番気にしているのは、ザンザスに取り入ろうとする女性達から刺されないだろうかということ。

今ここにいる私は10代目ファミリーの守護者としているわけだから、少しの殺気を出しながら歩く。
決して刺されたくないからとかではない。


ぐるりと会場を見渡せば、意外と簡単に綱吉をみつけることができた。
小さくザンザスに声をかけ、綱吉の方に行くように促す。
本当に行くのかとでも言うような視線を向けられるが、当たり前だと言う風に足を進める。
近付けば、9代目も一緒にいることが分かり、ザンザスの歩みが若干遅くなったような気がした。

大人である、大人だと思っている彼のちょっとした反抗心が子供っぽくて、どうにも憎めない。
子供の時に通過するべき過程が、今になって表れる時がある。
それは別に悪いことではないと思うが、私にだけ顕著に表れるのはどうかと思う。
それでも、嫌だと思ったことは今まで1度もない。


子供なんていないのに、ましてや結婚すらしていないのに子育てをしている気分に陥るときがある。
そこまで彼の事を考え続け、あぁもうやめだやめ、と考えることを放棄した。
そして、横で不機嫌そうな彼の代わりに目的の人物である人達に私から声をかけた。







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