『遅くなってしまい申し訳ありません。ボス、9代目』

「気にしないでおくれ。此方こそ、守護者の貴女にこんな事を頼んでしまって申し訳ない」

『いえ、これも仕事ですから』


なんて言いつつ、ほんとはそんなこと欠片も思っていない。
正直いきたくなかったし、お世辞を言うのもめんどくさい。
それでも言わないといけないのは、やはり力関係。
私が月白鬼をフルに活用したところで、ボンゴレには敵わない。

自分の欲求には素直でいたい私だが、それによって月白鬼のメンバーが危険に晒されるとなれば話は別だ。



1人で悶々と考えているうちに、彼等は少しぎこちないが、会話をしていた。
9代目の前ではどうしても素直になれなかった彼が、仕事以外で口をきいたところを初めて見た。


……まぁ今にも憤怒の炎を出しそうな程不機嫌だが。

ここまで来れば、私の仕事は終わりだ。
動きやすいとは言えないドレスを脱ぎたいがため、誰の目にも触れぬようコソコソと会場を抜け出した。







* * * * * *



自室に戻った瞬間、ドレスを脱ぎ捨てる。
若干時差ボケ気味だったのもあり、そのままベッドに倒れこむ。
そういえば、ザンザスにプレゼント渡してないや…と思ったがもう起き上がる気にはなれない。
久々にきた眠気に身を任せて目を閉じた。



………が、すぐに叩き起こされることになった。
部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。
ノックもせずにドアを蹴破るなんてこと、彼以外にいない。


『ザンザス………ここは一応本部で女の部屋なんですけど。ノックくらいしてよ』

正直、久々に休めると思ったのに、ぶち壊されて気分も機嫌も最悪。
ここが本部じゃなければ一暴れしていただろう。
珍しく理性が勝ったことに、自分でも驚いている。
ザンザスは私の不機嫌さを気にしていないのか、自分の要求だけを突き付けてきた。


「こっちのアジトに来い。下に車を待たせてる」

『は?……ちょ、待っ………行っちゃった』


こっちが疑問を投げ掛ける前に去ってしまった。
ただ一方的に言われただけだから、行く必要なくね?と思わないでもないが………そこは日本人、結局起き上がってしまう。
それだけならまだしも、プレゼントまで持っていこうとするのだから、救えない。

それも日本人の良いところだと自分を納得させ、部屋の扉を閉める。
………でも、立て付けが悪くなったことに関しては怒ってもいいだろうと、完全に閉まりきらない自室の扉を見ていて思った。




準備を終えて門まで来た私は、本人がまだ待っているなんて思わなくて気味が悪かった。


『なんだかなぁ………』

「おせぇ、準備できたならさっさと来い」

『世の中って不公平だよね』

「……それより早く乗れ」

『横暴だなぁ……………ナンデモアリマセン』


そんな人を殺しそうな目で睨まんでも……
不意にそんな目を向けられると流石に萎縮してしまう。
流石、暗殺部隊のボスだと感心してしまった。
またのんびりして睨まれたくないので、今度こそ車に乗り込んだ。







* * * * * *



ふと意識が浮上して、自分が眠っていたことに気付く。
大きな窓を覆うカーテンの隙間から覗く朝日が眩しくも心地いい。
こんな穏やかに朝を迎えられたのはいつぶりだろう。
もう少し……と朝日から顔を背けるように寝返りを打とうとしたが、思うように体が動かない。
なんか嫌な予感と既視感を覚え、目をそっと開く。
目に飛び込んできた光景に、またかと言う呆れしか出てこなかった。



『ザンザス、起きて離して』

「……うるせぇ」

『雲雀さんと言動が一緒だし』

「あぁ?」


一緒だと言ったのがよっぽど嫌だったのか、すぐに離してくれた。
私はまだ起き上がる気になれなかったので少し距離をとっただけで、再び目を閉じようとした。
でも、それは叶わなかった。



「人を起こしておいて二度寝とはいいご身分だな」

『いいご身分ですから』

「ここは俺のベッドだ」

『でしょうね。でも、もう少し寝かせて。どうせザンザスも寝るんでしょ』


私がそう言えば、反抗するようにベッドから降りた。
まじかよ、起きるのか……と思っていれば、お前も起きろと言われた。
眠れなくとものんびりしたいと目線で訴えるも、仕事だと言われてしまえば起きざるをえない。
誰だよ、こんな穏やかな日に仕事持ってきたやつは……とぼやくも、そんなもんは幻想にすぎねぇと言われてしまった。
まぁその通りなんだけども。



『ん?本部にでも行くの?』

「沢田綱吉から俺とてめぇに呼び出しだ」


成る程、だから隊服をちゃんと着込んでるのね。
何時もはYシャツ1枚で過ごしてることなんてざらなのに。
となると、私の穏やかな日をぶち壊したのは綱吉なのね。

日本で長期任務与えたくせに此方に来てまでまだ働かせるつもりか。
まぁ抗議したところで?いつもサボってるよねって言われるのは目に見えているのだが。



『日本人は働きすぎなんだよ!!』

「うるせぇ、さっさとしやがれ」

『あー待って待って』


そういってベッドから降りれば、フン、てめぇはやはり日本人だなって言いながら先に出ていってしまった。
早くしろと言いつつ先に行くのかよと思ったが、それをぶつける相手は既に扉の向こうだった。





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