米花町を徘徊すること1時間。
運が悪いのか蘭以外、誰にも会っていない。
住宅街のため休憩できそうな喫茶店もない。
それよりも、先程から見たことのない景色が続いている。
『………迷った?』
まさかぁなんて言って笑い、気のせいだと再び歩きだす。
一瞬、迷子になったらその場から動かないことと言う言葉が頭を掠める。
しかし、立ち止まったところで私1人で行動しているため、そんなことをしても意味はない。
地図を見るか、最悪誰かに迎え来てもらえばいいとスマホを探すが………
『……まじか』
日頃外に出るときもあまり持ち歩かないことが祟ってしまった。
町中で遭難……なんて事は起きないだろうが、それに近い状況には陥りそうだ。
文明の利器にも頼ることができなくなった今、気の向くまま歩こうと決め、1歩を踏み出した。
* * * * * *
「君達の知り合いに博士がいるのかい?」
「うん、いるよー!」
「いつもくだらねぇゲームばっか作ってるけどよ!」
「一応、工学部の博士号を取ったと言ってました!」
木馬荘の放火犯を突き止め、気の抜けた会話を目の前で繰り広げる子供3人と沖矢昴さん。
対して警戒するように俺の後ろにいる灰原。
それはまるで、組織の人間が近くに居るかのよう。
"沖矢昴"
それはFBI捜査官、赤井秀一が変装して造り上げた人物。
彼は一時期、潜入捜査官として組織に潜り込んでいたことがあるという。
であれば、彼女は何かを感じ取ったのかもしれない。
だが、彼の正体を明かすわけにはいかない。
少し心苦しく思っているうちに、博士の家に行くことが決まったようだった。
目線を進行方向へ向ければ、ある人物の姿が目に入り、思わず名前を叫んでしまった。
* * * * * *
もう迷っているなんて考えないように、ただひたすら歩いていれば、驚いたように私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「真昼さ……姉ちゃん!?」
『……コナン君!!』
「どうして……」
助かったと言いながら、混乱するコナン君に抱き付く。
歩美ちゃんの声で正気に戻ったコナン君が、問い詰めるように言葉を発した。
「真昼姉ちゃん今まで何処に行ってたの?学校にも来ないって蘭姉ちゃん達も心配してたよ?」
『まぁ家庭の事情ってことで休んでたの』
「……それにしても、重そうな袋ね。何が入ってるの?」
『バーボン』
私のその言葉に沖矢昴と思われる人物の眉が動いた。
コナン君は特に反応してないから、まだ情報は入ってないんだろう。
「お酒なの?」
『そうだよ。お薦めだと教えてもらったから。あ、皆の分もお土産あるよ?チョコレートだけど』
チョコレートという言葉に反応したのは歩美ちゃん達。
早くお土産が欲しいのか、早く博士の家に行こうと歩き出す。
私は1番後を歩きながら、頭を抱えていた。
『(いつの間に沖矢昴が出てきたんだよ……。ってことはあれでしょ?キールは組織に戻って、赤井秀一は来葉峠で死んだんでしょ?………まぁ上手くいったようだからよかったものの……)』
「……真昼姉ちゃん!!」
『ん?呼んだ?』
「さっきから何回も呼んでるよ?それに眉間にシワ寄せてどうしたの?」
『あーごめんごめん。この袋案外重いから』
私がそう言えば、すっと荷物が軽くなった。
正確には、私の手から荷物がなくなったとも言う。
「まだ挨拶してませんでしたね。沖矢昴です。大学院に通っています」
『……柊真昼です。帝丹高校に通っています』
「高校生でしたか…てっきり大学生かと思いました」
まぁ実際高校生じゃないけど。
中学生に見えるよりは良かった、と思うことにしよう。
「確かに真昼お姉さん大人っぽいですよね!!制服着てないからちょっと分かりませんでした」
「ほんとほんと!!こうやって見てると、昴さんと真昼お姉さんお似合いだよね!!美男美女で!!」
「もう付き合っちまえよー」
……子供の癖になんでこんな話題が好きなんだよ。
とあるご令嬢の影響だったりして………まさかね。
現実逃避をしていれば、あらぬ方向へ話が進んでいた。
「ねぇ、昂さんはどう?真昼お姉さんのこと!!」
「美人だと思いますよね!!」
『…ちょ「確かにこんな綺麗な女性に会ったのは初めてですね」!?』
なにを言い出すこの人!?
吃驚だわ。
『沖矢さん?何言ってるんですか』
「できれば名前で呼んで頂きたいですね」
『遠慮します』
「残念ですね」
元太君が兄ちゃんフラれちまったなー何て言っているが気にしない。
私は何もなかったように博士の家に向かって歩いた。
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