「少し気落ちしているように見えたんだ」
顔にも態度にも出していないつもりでいたことを言い当てられ、少したじろぐ。
『まだ会った回数も少ないのに……なんでそんな……』
「過去、貴女が俺と会ったとき、少なからず表情が緩んでいた。今日はひきつっていたように感じただけだ」
『………バレないと思ってたんだけどなぁ』
降谷さんの言葉に驚きを隠せず、小さくこぼしてしまった。
それも漏れなく拾われてしまい、さらに想定外の言葉が聞こえてきた。
「好きな女の変化に気付かないわけがないだろう?」
『…………………?』
なんか、聞きなれない言葉が聞こえた気がした。
いきなり言語が英語になった?それともイタリア語?
………いや、どちらも会話に困らない程度には話せる。
何も言葉を発しなくなった私を不審に思ったのか、再度声をかけてきた。
「どうした?」
『…………えっと、何て言いました?』
聞き間違いであることを願い、もう一度言ってくれと返す。
「……?だから、好きな女の変化に気付かないわけがないだろう?」
『………(聞き間違いでも言語が違うわけでもなかった……)』
「おい?」
頭が言われた事を理解したとき、前を見て運転する彼から目を離すことも出来ないほど動揺し、動けなくなった。
正直、こんな時なんと返していいかわからず、黙るしかできなかった。
そんな私の態度に、降谷さんは車を路肩に止めて私と目を合わせる。
「……困らせてしまったな」
『あ……いえ……』
「だが、俺は本気だ。諦めるつもりはない」
そういう降谷さんの目は、必ず獲物を捕らえるという捕食者の目をしていた。
その目を見つめているのは危険だと脳が警鐘をならしているにも関わらず、逸らすことができなかった。
動けない私の頭にポンと手を置き、そのまま犬にするようにぐしゃぐしゃと頭を撫でた。
『ちょっ…!!』
「ははっ……やっと反応が返ってきた」
『子供っぽいことするんですね……』
「告白したのに反応が無いのはショックだからな」
『降谷さんがそんな事言うなんて思ってなかったんで、思考が追い付かなかったんです』
漸く思い通りに体が動かせるようになり、窓の外に視線を移す。
私の反応を面白がっていた降谷さんは、運転を再開させた。
でも、何故そんな事を言ったのか、何故相手が私だったのか気になってしまい、今度は此方から声をかけた。
『どうして………私なんですか?降谷さんなら、女なんて選び放題なんじゃないですか?』
「そんな事ないさ」
『いや、あるから聞いたんですけど……』
女なんて選び放題では?という質問は即座に否定された。
しかし、前者の質問については答えてもらっていない。
続きを促すように見つめている降谷さんの横顔は、見たこともないくらい穏やかな表情を浮かべていた。
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