私の住んでるマンション前に着いたので、お礼を言ってシートベルトを外す。
降谷さんはドアを開けようとした私の手を引き、目線を合わせてきた。
「……真昼」
『はい?……てか、名前………』
「問題あるか?」
『大有りです!!』
呼び捨てなんてされたらどうなることか……
後々ポアロに来たときもそんな態度とられたら他の女子高生に殺される。
私のそんな心配なんか知るかというように降谷さんは畳み掛けてきた。
「言っておくが、直すつもりはないし、お前が好きなのも事実だ」
『疲れで血迷ってるだけなんじゃ……』
「疲れただけでそんな事を口にする奴に、公安など勤まらない」
『本気だとしても………降谷さんの気持ちにこたえることは…出来ません』
私はマフィアの幹部で、彼は公安警察。
追うものと追われるもの。
決して交わらない……交わってはいけないもの。
いずれ終わりのくる関係なら、始まらない方がいい。
「…諦めないからな……必ず奪いに行く」
『……っ』
そう言う降谷さんになにも返せず、ただ見つめるしかできなかった。
何時間もそうしていたように感じたが、実際は数分だったかもしれない。
先に動き出したのは降谷さんだった。
「引き留めて悪かったな。そろそろ家へ入れ」
『いえ……今日はありがとうございます』
「また、近いうちに連絡する」
『………』
降谷さんの最後の言葉には返事を返さず、お辞儀をしてマンションに入った。
部屋に戻ってからも降谷さんの言葉が頭を廻る。
"お前が好きなのも事実"
"必ず奪いに行く"
嬉しくないと言ったら嘘になる。
でも、今は嬉しいというより悲しい……というか苦しいの方が近い気がする。
何故苦しいのか……
そんな事を考える思考を止めるかのように、スマホの着信音が部屋に響きわたる。
相手を確認すると、そこには"沢田 綱吉"とでていた。
出たくないけど…………
『…………はい』
「あ、やっと出た」
『いや、延々と呼び出し続けるから…………』
「何かあったら報告しろって、俺言わなかったっけ?」
『何も無かったんだもん』
「もん……じゃないでしょ」
いや、本当に報告するようなことは何も起こってないんだけど……
待って、そもそも調べるだけならわざわざ高校生に混じらなくてもよかったんじゃないか?
『ねぇ、どうして私を高校生にした?例の組織について調べるだけならこんなことしなくても情報はとれるでしょ?』
今になって漸く、この任務の異質さに気付いた。
情報を得るために高校生に成りすますメリットなどあるだろうか。
ぐるぐる考えていれば、静かに綱吉が理由を話始めた。
「瑞希を、例の高校に転入させた方がいい気がしたんだ」
たっぷり間をあけて綱吉が話し出す。
『………超直感?』
「そう。まぁ悪い予感じゃないから、その通りにしてみようと思って」
『それならしょうがないか。綱吉の超直感鋭くなってきてるし』
「まぁ仕事の話はここまでとして………何かあった?」
どうしてこうも私に起こった出来事を察知されるのだろうか。
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