「………寝に来たわけじゃねぇのか」
『いつも寝に来てるみたいに言わないでよ……まぁ間違ってはないけど……』
「何を考えてやがる」
『何っていう訳じゃないけど、強いていうなら頭の整理……?』
ザンザスの方から話し掛けるなんて珍しい。
でも、その問いかけにはっきりと返事ができなかった。
そのせいで、余計に問い詰められることになった。
「日本で何かあったのか」
『………あったと言えばあったけど、別に気にするほどの事でもない』
嘘だ。
気にしすぎているから、任務中にも関わらずイタリアに戻ったのだ。
いや、逃げてきたのだ。
彼のいる日本から………
「お前が逃げ帰るとは、珍しい事もあるんだな」
『そう………かもしれないな………』
「フン、ターゲットにでも嫌われたか」
『…………嫌われた方がよかったさ』
何も考えずに彼の問いかけに答えていき、最終的に何が起こったかを馬鹿正直に打ち明けたようになってしまった。
「一般人から好意を向けられ、断ったにも関わらずアピールされてどうしていいか分からない………といったところか?」
『私そんな事まで喋ったかな……』
「お前が戸惑う事なんざ、そうそうねぇから分かっただけだ」
『嘘でしょ………』
腕で顔を覆いながら、ボフン……と再びソファーに倒れ込む。
ザンザスに言い当てられたのはダメージがデカイ。
色恋沙汰なんかに翻弄されている羞恥。
自分の感情1つコントロールできない未熟さ。
そして、そんなことに悩むと知られた乙女思考の露見。
「いいんじゃねぇのか。たった1人を特別に想っても」
『別に、好きな人なんかいない』
「お前が何とも思ってない人間からの好意に戸惑う訳がねぇ」
そこまでバレてしまっているのかと、頭を抱えたくなった。
こっちに戻って最初に自覚したのは彼……降谷さんに対して少なからず好意を抱いていること。
ただのファン意識かとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。
恐らく、あの時から意識はしていたんだろうと、彼の車の助手席で眠ってしまったときの事を思い出した。
『例えお互いに想い合っていたとしても、こたえることは出来ないな』
「ハッ……失うのが怖いか」
『……違う』
「嫌われた方がいいとぬかした口で」
『うるさい』
「臆病者」
『黙れっ……!!』
私が思っていることを的確に言い当てるザンザスに苛立ち、ソファーから起き上がって彼の胸ぐらを掴んだ。
苛立ちを隠さない私と、いつものように冷静な表情を浮かべる彼。
それが余計に私の苛立ちを募らせた。
『……』
だがザンザスは悪くないと、ふと冷静な思考を取り戻した私はそっと手を離した。
小さく謝罪したが聞こえなかったのか、彼からの返事はなかった。
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