近くにあった駐車場に車を停め、海岸へ向かう。
そもそも、ポアロにいくだけで海に来る予定なんてなかったので、大分軽装だ。
時期外れの海に、上着がパーカー1枚では流石に寒い。
無意識に腕を擦っていれば、ふわりと肩に何かかけられた。
「これでも着ていろ。その薄着で海は流石に無配慮だったな」
『いえ……降谷さんは寒くないんですか?』
「あぁ、俺は大丈夫だ」
『じゃぁ……お借りします』
肩にかけられたのは降谷さんのジャケットだった。
戸惑ったが、寒かったのは事実なので有り難く借りることにした。
2人して黙ったまま、並んで海岸沿いを歩く。
『降谷さん、どうして海に来たんですか?』
「俺は今、人が多いところは避けたいからな。それに、好きな女をデートに誘うのはおかしなことか?」
『デート……』
「あぁ」
再び降谷さんの口から、デートと好きな女という言葉が出てきた。
そう言う降谷さんは、見たこともないくらい穏やかな表情をしている。
その表情に思わず心臓がはね、頬に熱が集まった気がして下を向いた。
でも、言うなら今かもしれない………
『降谷さん…』
「なんだ?」
『私が、降谷さんのこと………好きだと、言ったらどうしますか』
下を向いたまま言う私に、驚いた降谷さんは私の正面に立つ。
「もう、離してやれないな」
『それは私が………降谷さんと相容れない立場の人間だとしてもですか?』
今度はしっかり降谷さんの目を見て言葉を紡ぐ。
すると、驚いたような、焦ったような表情を浮かべる。
「お前が、組織の人間だと言うことか?」
『いえ………組織で聞いたこと、ありませんか?時々、奴等の邪魔をする存在がいること……』
「あ、あぁ………ラピスラズリと名乗る女がいると……まさか!!」
『その、まさかですよ。どうします?私を餌に、組織の中枢へ入り込みますか?』
降谷さんに、私の正体を半分明かした。
これで、否定されるならきっぱり諦めようと思っていた。
そう思った瞬間、腕を引かれたと思ったら降谷さんの腕の中に収まっていて軽くパニックになった。
「それだけか?」
『え……?』
「お前が、言いたいのはそれだけかと聞いている」
『………言えるのは、これだけです』
最後の最後に臆病な私が出てきた。
嫌われたくないと、大事なところで誤魔化した。
いずれバレる時までに、覚悟を決めるから……
それまでは、どうか嫌わないで……
「なら、今度は俺の番だ。まず、お前を組織に引き渡そうとも、正体を教えようとも思っていない。次に、俺だってお前に全てを話せるわけじゃない。お互い様だ。最後……例え真昼が犯罪者であろうと、俺は君を愛し続けるだろう」
『な、なんで………』
「這い上がれないところまで、堕ちたからだろうな……お前に」
『………後悔、しますよ』
「後悔するのは、お前を手放してしまうことだ」
自信満々に言うものだから、少し信じてみようと思った。
おずおずと降谷さんの背に腕を回せば、更に強く抱き寄せられた。
鼓動が早くなったのがバレたくないと思うも、大人しく腕の中に収まったままじっとしていた。
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