辺りが暗くなった瞬間、奈々さんがパニックに陥りそうになる。
立ち上がりそうになるのを押さえ、声をかける。
『大丈夫ですから、ここを動かないで下さい。いいですね』
「え、えぇ……」
奈々さん落ち着いたのを確認し、すぐに広い場所に出る。
私は奈々さんの声色を真似て、パニックになったと近くにいた蘭とコナン君に印象付ける。
『なに!?どうしたの!?なんで電気が!!』
「奈々さん、動いちゃダメ!!」
私がそう叫んだ瞬間、ワイングラスが顔の横すれすれを通過した。
コナン君の制止する声が聞こえるが、私は奈々さんじゃないので知らんふり。
彼らに危険がないように少し離れる。
まぁ、これだけ暗闇にいれば目も慣れてくるので、私の行動に制限は無いに等しい。
私は再び奈々さんの声色で悲鳴をあげながら動く、爪が目立つように。
その時、背後から人が近づいてくる気配がした。
私はそれ以上その場を動かずに機会をまった。
すると私の左肩を掴み、ナイフが空を切る音が聞こえる。
このまま動かなければ確実に背中に刺さってしまう。
この後の事を考えれば、流石にそれだけは避けなければならない。
不審に思われない位の抵抗で、ナイフが背中に刺さる瞬間体を捻り腕に刺さるように仕向ける。
『ぎぃゃゃぁぁああああ』
奈々さんの声色で、尋常じゃないほどの悲鳴をあげる。
流石に腕を貫通する勢いで振り下ろされれば、私だって痛い。
最後の悪あがきに映るように、掴みかかる。
その隙に、ポケットに奈々さんが貰ったマニキュアの瓶をいれる。
例え気付かれて捨てられたとしても、乾ききっていないマニキュアと私の血が彼のポケットの内側についているため、十分な証拠になるだろう。
そして、私はそのまま床に倒れる。
騙されてくれた犯人は、私の手の近くにトランプを置き、その場を去った。
1つ誤算があるとすれば、ナイフが刺さったままだと言うこと。
抜いても構わないが、ナイフに付着した私の血の範囲と、傷の深さに差があれば流石に不審がられる。
まじ、ふざけんなよ……と体を起こし、明かりが点くのを待った。
あ、待って、今点くの不味い、何も対策考えてない……と慌てたところで無情にも明かりが点いてしまった。
『…………あ』
「真昼!?」
「真昼姉ちゃん!?」
視界が開けた瞬間目に飛び込んできた2人に神はいないと思った。
まぁ元々信じちゃいないけど……
「真昼!!それ、早く手当てしなきゃ!!」
「早く止血して!!」
『ちょ、落ち着いて………』
と言うも、全く聞いていないこの2人。
そこに追い討ちをかけるように複数の足音が近付いてくる。
あ、やばい……と思い隠れたいが、今動けば確実に貧血になると思い、動けなかった。
「なんだ、さっきの悲鳴は!!」
「奈々さん、無事ですか!?」
「……あ、あれ?」
駆けつけた男性陣は、腕にナイフが刺さったまま床に座り込む私に一瞬状況判断が出来ずにいたらしい。
聞こえた悲鳴は奈々さんのものだと思ったのだろう。
『えー、奈々さんは無事ですよ。奈々さん、出てきて大丈夫ですよ!!』
「あ……」
『私は大丈夫ですから!!』
私の姿を見て、彼女の顔が罪悪感で一杯になる前に、慌てて安心させる言葉をかける。
その間にも零さんは傷の応急処置をしてくれていた。
『安室さん、ありがとうございます』
「……っ!!」
笑って言えば、零さんは苦しそうな表情を浮かべる。
そして腕の傷を気遣いながらそっと抱き締めてくる零さんに、私はまた間違った事に気づいた。
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