零side


最近毛利さんの周りで起きている事件がある。
トランプになぞらえて名前に数字がある人が次々襲われているらしい。
先日、プロゴルファーの辻弘樹が自分の運転するヘリコプターで事故にあったときいた。

どうか、瑞希が巻き込まれないようにと祈るも、彼女は進んで関わろうとする。
だか、彼女の名前に数字は入ってない。
今回は大丈夫だろうと判断した矢先、彼女宛の手紙が何故かポアロに届けられた。

恐らく、事件に関する招待状……
店にきた彼女に渋々見せると、待ってましたと言うような表情で笑った。

なぜ笑う!!と問い詰めるも、結局説得されてアクアクリスタルまで来てしまった。


「(絶対に、守る)」


そう意気込むも、彼女は自ら危険な所に飛び込んでいく。
小山内奈々の身代わりにもなっていた。
悲鳴を聞き慌てて戻った俺の目に映ったのは、腕にナイフが刺さったまま床に座り込む彼女の姿。
右腕全体が赤く染まるほどの出血。

自分の無力さに、ただ黙って止血と応急処置をする。
一通り終わると、瑞希は俺を見て笑顔でありがとうと礼をいう。
そんな彼女の顔を見ていられなくて、腕の傷のに気を付けながら抱き締めて瑞希の肩に顔を埋める。
安室透では決してしないようなことも、やってしまう。


「(守ることが出来なかった男に、何故そんな顔を向けられる?)」


絶対に守ると誓ったのに、思うようにいかない。
愛する人すらまともに守ることが出来ない俺に、何がきでる?


『…………私を手離せば、そんな心配はいらないよ』


瑞希を………手放す?
そうすればもう、苦しむこともない?
己の力に疑問を持つこともなくなる?

その方がいい………と瑞希と出会う前の俺ならそう判断しただろう。
でも…………
俺に見せていた笑顔を他の男に向けるのか?
甘い色を浮かべた瞳で見つめるのか?
無防備な寝顔をさらすのか?
…………………そんなこと、出来そうにない。


「ふざけるな。誰が手放すものか。お前はもう俺のものだ」


そうだ、俺のものだ。
お前が嫌がったって、もう離してやれない。
悪い男に捕まったと諦めてくれ。


「(瑞希には敵わないな……)」


彼女にはいつも助けられてばっかりだ。
俺の心のに出来た淀みを浄化してくれる。
もう少し彼女の温もりを感じていたかったが、ここが何処だか思い出し、腕の中に閉じ込めていた彼女を解放する。

いつまでも皆と離れたところにいるのは得策じゃない。
合流しようと、彼女の手を取り立ち上がらせる。

すると一瞬、彼女の目の焦点がブレたように見えた。
どうやら、血を流しすぎたようだ。
歩くときも俺に少し寄り掛かってる。


「(全く……無茶ばかりする)」


とにかく、早くここから出て彼女を病院に連れていかなければ。
だが、2度も爆発が起き、水槽が割れて海水が流れ込んでくる。
離れぬように、瑞希を抱き締める腕に力を込めるも叶わず、腕の中からすり抜けていった。
一旦水面から顔を出し、彼女が居るか確認するも、見当たらない。


「コナン君!!真昼を見たか!?」

「いいや、それに蘭姉ちゃんも見当たらない!!」


俺らの大切な人どちらも見当たらず、珍しく焦る。
その時、近くで蘭さんが上がってきた。
コナン君は一旦ほっとするも、彼女の言葉を聞いて再び焦った表情になる。


「安室さん!!真昼が、車の下敷きに!!」

「……っ!!」

「あ、安室さん!!」


コナン君の呼び止める声が聞こえるがそれどころではない。
ただ瑞希のもとに向かう事だけを考えていた。

車の下敷きになった彼女を見つけたときは、生きた心地がしなかった。
無駄に酸素を消費しないように、眠るように待っているのは分かった。
だが、この距離でも分かるほどに腕から血が流れ出ている。


「(こんな光景、2度と御免だ……)」


俺が来たのが分かったのか、目を開いて此方を見てくる。
しかし、再び目を閉じかけたのを見て、息が続かないのだと理解した。
どうにかしなければと思ったとき、コナン君が空気の入ったペットボトルを持ってきてくれた。
そのお陰で再び目を開いた瑞希。


「(とりあえず、よかった……)」


彼女の目が開いた事で、少し気が緩んだのは否めない。
そのせいで、変な流れにのってきた物を避けることが出来なかった。
その衝撃で息を吐き出してしまい、一気に息苦しくなった。
コナン君が持ってきてくれたペットボトルには既に水が満たされていて使えない。
意識が飛びそうになったとき、唇に何かが触れた。
すると息が出来るようになり、何が起きたか理解した。


「(……瑞希っ!!)」


彼女はそのまま意識をなくし、手を握っても頬に触れても、反応を示さなくなった。
早く水中から出さないと、と焦ったとき、車が浮き瑞希の体が解放された。
そのまま瑞希を抱えて水面から顔を出す。
漸く、自分も満足に息ができたとき、抱えた彼女はぐったりしたままだった。


「真昼!!おい!!目を開けろ!!」

「真昼!!」

「真昼姉ちゃん!!」


コナン君達も必死に声をかけてくれる。
それから少しして、彼女の意識が戻り、よかったと安堵した。





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