今日は蘭が仁科稔のサイン会に行くと言うので、その付き添いという名目でやって来た。
「パリのレストラン」などの料理関連の本を書いているらしい。
………が、私は興味ないので読んだこともない。
全く興味の無い自分がサイン会の列に並んでいるなんて、少し気まずさを覚える。
早く帰りてーと思っていれば、蘭の番になっていた。
「よし。はい、どうぞ」
「ありがとうございます!!仁科さんの大ファンなんです。これからも美味しい本を沢山書いてください!!」
「え?…あっははは!!美味しい本は良かったね。ありがとう」
蘭よ、美味しい本とはなんだ………
呆れた……訳ではないが驚いたのは確かだ。
帰りのエスカレーターで、やっぱり園子があることを口にする。
「写真で見るよか 、ずっとイイ男じゃん。私あのタイプ結構好みなんだ」
「園子ったらまたそんな事」
『でも、蘭にしては珍しいね。そういったものに興味ないと思ってた』
「そんなことないよ?」
『………浮気はダメよ』
私がそういうことを言うのが珍しいのか、蘭も園子も目を見開いた。
蘭はその後すぐに顔を赤らめて反論してきた。
「そんなんじゃないってば!!もう……真昼まで………」
「まぁ……ちょーっと珍しいわよね」
「ちょっと園子!!」
なんてやり取りをしながら建物を出る。
すると目の前の道路を乱暴な運転する車が目の前を通過した。
するとすぐそこに止まり、運転手が車から降りてきた。
「やっぱり、モデルの小山内 奈々よ!!」
「私女には興味湧かないの。早くポアロでお茶しよ」
『あれ、ポアロになったんだ……?』
私の疑問には誰も答えてくれないまま、スタスタ歩いていってしまった。
いつもの事かと思い、2人の後を追った。
* * * * * *
『なるほど。ポアロに変更になったのは園子が安室さんの新作ケーキを食べたかったからなのね』
「美味しいって評判になってるしね。学校帰りだと売り切れになってることも多くって」
「そうなのよ!!だから今日こそは絶対に食べるんだから!!」
『……そんな意気込まなくても食べれるんだから落ち着きなよ』
サイン会場近くのカフェでお茶する予定がポアロになった理由がよく分かった。
安室さんのケーキが目的だったのね。
目を輝かせている園子を薄目で見ていれば、目的のケーキを安室さんが持ってきた。
「そんなに僕のケーキを楽しみにしてくれていたなんて、嬉しいですね」
「わぁ!!美味しそう!!」
「でしょ!?」
『あぁ……このケーキがメニュー入りをはたしたのね』
思わず溢した言葉を園子と蘭に漏れ無く拾われた。
「ちょっと、真昼どう言うこと!?このケーキ以外にも安室さんのケーキを食べてたっていうの!?」
『モーニング頼むといつもくれるんだもん』
「試作品を一般のお客様に出すわけにはいきませんからね」
『あれ、お前は客じゃねーよって聞こえた気がした』
「いつもお代を僕持ちにするんですから、協力してくださいよ」
2人で居るときのようなテンポで会話をしていれば、いつの間にか蘭と園子が静になっている事に気付いた。
いつもなら煩いぐらいに根掘り葉掘り聞いてくるのに……
そう思って目を向ければ、何とも言いがたい表情を浮かべた2人がいた。
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