今夜、蘭は別居中の両親を食事に誘い、仲直りさせる事を企てていた。
「何時?お母さんとの食事は」
「7時」
蘭が腕時計を見ながら答える。
「今回も蘭がお膳立てしたんでしょ?」
「うん」
「あんたも苦労してんだね。10年前だっけ?お母さんが家出てったの」
『……そんなに前からだったんだ』
離婚じゃないから何とも言えないけど……両親が別居してるのに、蘭って全然すれてないと言うか、優しくていい子だよね。
「そう、私が7歳の時。2人が大喧嘩してたのを覚えてる。別居した理由は、性格の不一致らしいわ」
「それから間もなくだよね。お母さんが弁護士として華々しく活躍するようになったのは。それに引き換え、お父さんは刑事を辞めて、売れない探偵家業を始めた。そう!今でこそ蘭のお父さん、急に名探偵になっちゃったけど、蘭がついてなかったら身を持ち崩してたかもね……うん!」
「そんなこともないと思うけど。でもその点、お母さんはしっかりしてたわね」
当時と今を思いながら言葉を綴る蘭。
大好きな両親と一緒にいられない寂しさが少し瞳に写っているような気がした。
でも、それも一瞬で話題は安室さんのケーキの話になっていた。
* * * * * *
ふと時計を見れば17時をまわっていた。
何処の店にいくのかは知らないが、そろそろ準備を始めた方がいいのでは…と思ったので、蘭に声をかける。
『蘭、17時まわったけど準備しなくていいの?』
「え!?嘘、もうこんな時間!?ごめん2人共、私先に帰るね」
「うまくいくと良いわね」
「うん、ありがとう!!」
そう言うと蘭は自分の分のお代をテーブルに置き、店を飛び出していった。
といっても、彼女の自宅はこの建物の2階にあるので帰宅までの時間は1分もかからないのだが………
「って、呑気に蘭見送ってる場合じゃなかった。私もそろそろ帰んなきゃ。真昼はどうする?」
『あー……私はこのまま夕飯食べて帰るから、ここに残るよ』
「いいえ、真昼さんも帰るんですよ」
私はポアロ残る意向を園子に伝えるも、すぐ後ろからそれを否定する声が聞こえた。
「あれ?安室さんもあがりなんですか?」
「えぇ、梓さんに今日は帰るよう言われてしまいましたからね」
『いっつもシフトに穴開けるのに、帰っちゃうんだ?』
「えぇ、誰かのお陰で今日は散々でしたからね」
あ、目が笑っていない……
かなりご立腹のようだ。
「ウフフ……じゃぁ真昼と安室さんはこれからデートなんだ!!」
「えぇ。また蘭さんとケーキでも食べに来てくださいね」
園子はまた来ます、といって店を出ていった。
私的にはデートというより、ドナドナされる……という認識でしかなかった。
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