あなたって冷たいのね


 私が彼を選んだのは、彼が一番私のことを大事にしてくれそうだと思ったから。
 高価な贈り物も、歯の浮くような甘い台詞も別に要らない。
 ただ傍にいてくれればそれでよかった。彼の優しさに触れていれば、私はそれだけで幸せだった。

 世界中を駆け回るハンターの両親を持った私は、ひどく寂しい幼少期を過ごした。
 だから理想の恋人の条件は、私を大事にしてくれる人。この人となら、温かい家庭を築けると思える人。
 何の因果か私はまたハンターなんていう厄介な職業の男に惚れてしまったけれど、医者になるのが夢だというレオリオなら大丈夫だと思った。ハンターは職業柄、自分本位な人間が多い。けれども彼が医者を目指しているのも、ひどく優しい理由からだった。

 私はレオリオが好きだ。彼のあたたかさは、寒風吹きすさぶ私の心もじんわりと溶かしてくれる。彼とならきっと幸せになれる。



「あなたって冷たいのね」

 数回のコール音の後、留守電サービスに切り替わった携帯へ私はそんなメッセージを残した。

 今日は私と彼がつき合い初めて1年の記念日だった。お祝いしましょうね、と約束もしていた。昔から誕生日やその他あらゆる記念日を両親にすっぽかされていた私は、今日のこの日をひどく楽しみにしていたのに。

『悪ィ、ジャイ子、どうしても行かなきゃならねェんだ』
『オレのダチが瀕死の状態らしい。ほら、ニュースでUMAの話がやってただろ。ダチは、ゴンはそいつと戦って、今酷い状態らしいんだ』
『何も知らなかった……オレが行ったって何もしてやれねーのはわかってる。でも、仲間なのに、ダチなのに、何も知らずにのうのうと過ごしてた自分が許せねェんだ。せめて、傍に行ってやりてェ。
 悪ィな、ジャイ子。許してくれ』

 常識的に考えて、たかだか1年目の記念日と友人の危篤なら、後者を優先して当然だと思う。謝る必要はない。私の了承も要らない。それでも、レオリオは私の生い立ちを知っているから、私が胸の内に大きな寂しさを抱えていることを知っているから、そう言って頭を下げて出て行った。

「……やっぱり、ハンターは駄目なのかな」

 私だって、今の自分がひどく我儘であることくらいわかっている。それでも、彼が今日ここにいないことが寂しくて、心が寒くて、仕方がなかった。私の知らない誰かのために、必死になって駆け付けていった彼の後ろ姿が瞼に浮かぶ。それは新種の生物が見つかったからとか、指名手配中の犯人の足取りが掴めたからという理由で、生き生きとしながら家を出て行った両親の背中と重なった。

『ゴンを助けたいんだ』

 堪えきれなくなって、私の目からぽとりと手の甲に落ちた涙は、想像よりもずっと温かかった。
 やっぱり、彼は私の両親とは違う。彼の行動原理はどこまで行っても人の為。私はそういう優しい心根の彼を好きになったのだ。



「レオリオ、あなたって冷たいのね」

 私はもう一度、留守番電話にメッセージを吹き込む。
これだって彼の優しさだ。重要な連絡を取り合う可能性があるから、回線を開けておきたい。そう思うなら単にかけてくるなと言えばいいのに、彼はわざわざ私の番号を指定留守番設定にして、余裕があるときに聞くと言ってくれた。

 彼は私のことをちゃんと考えてくれているのだ。そう思うと、温かい感情が胸の内に広がっていく。

 一呼吸おいて、本当に伝えたかった言葉を口にした。

「そんなに大事な友達がいるなら、もっと早くに紹介してよ。そうね、今度帰ってくるときはそのお友達も連れて来て。せっかくだから皆に祝われたい。
……私、あなたのことが大好きよ」