鈍感は命取り
「今すぐここから出せ」
「お断りします」
間髪入れず答えればそれはもう怖い顔で睨まれた。このままだと拳の一発や二発飛んできそうだ。痛い思いはしたくないから予防線を張っておくことにする。
「私を脅したところで念は解除できないからね!何があろうとここで一日過ごしてもらいますから!」
「馬鹿なことを……」
項垂れる金髪の旋毛を見ながら小さくガッツポーズをとる。残りあと23時間47分。誰にも邪魔されずクラピカと過ごせるなんて、なんという役得だろう。
――発端は、センリツの一声だった。どうにかしてクラピカを休ませられないかっていう。クラピカがワーカーホリックなのは誰が見ても明らかだ。本人に掛け合ったところで一蹴されるのが関の山。ならば強制的に休ませる環境を作るしかないだろうと半ばヤケクソ気味に可決された案を実行するために選ばれたのがこの私。
私の念は対象者を特殊な念空間に丸一日閉じ込めることができる。一度発動させれば、たとえ能力者であっても途中で解除することはできない。それを知っているから、クラピカの抵抗は口先だけで留まっているんだろう。
しばらく項垂れたままだったクラピカが、ふいにパッと顔をあげた。
「誰の案だ」
「え?」
「誰がこんな馬鹿げたことを言い出したんだと聞いている」
舌打ちさえ聞こえてきそうないまいましい口調でクラピカは言う。その鬼気迫る迫力に思わずたじろいだ。
「センリツだけど……」
「チッ」
クラピカは今度こそ舌打ちしてみせた。
き、機嫌悪ぅ…!
「勝手に閉じ込めたのは悪かったけどそんなに怒らなくたっていいじゃない。みんなクラピカを心配して……」
「余計なお世話だ」
ピシャリと切り捨てられ、それ以上言い募ることはできなかった。
どうしよう。まさかここまで怒らせちゃうなんて。呆れつつもなんだかんだ受け入れてくれると思ってたのに…。
かつてなく感情を露わにするクラピカを前にして、私はどうしたらいいか分からなくなった。ていうか、怒ったクラピカめちゃくちゃ怖いんですけど!
「……あの、肩でも揉みましょうか?」
「結構だ」
「あ、じゃあ何か飲む?この部屋、好きなものを自由自在に出せるんだよ!」
「いらない」
ああもうどうしたらいいんだ!
さっぱり扱い方が分からず頭を抱える私を尻目に、クラピカは疲れたように長い息を吐いた。
「……ジャイ子は、何も分かっていない」
何かを堪えるように顰められる眉を見て、途方もない無理難題を突きつけられた気持ちになった。
――残り時間あと23時間39分。クラピカの真意を知るのは、もう少し先のお話。