三回鳴った汽笛


低く唸るような汽笛が三度鳴った後、最後の乗客を乗せた船が港を離れた。
薄ぼやけた春空から射し込む穏やかな陽が、深い青に反射して、一面を燦々と輝かせる。
ゆっくりとけれどもあっという間に、船は幻想のような光の向こうへ消えて行ってしまった。
「一緒に見送る事ができて良かった」
私の呟きに、隣に立っていたクラピカが吐息を落とした。
クラピカの顔を見る勇気はない。
なぜならこの最後の見送りは、彼にとって様々な記憶を思い出させるものだと理解していたから。
「ごめんね」と私は謝った。
謝るつもりなんてなかったけど、言わずにはいられなかった。
「なぜ謝る」
クラピカは静かな声色だった。でも決して冷たいものじゃない、胸にストンと落ちてくるような安心する声だった。
「クラピカなら気づいているでしょう」
あの船が私の故郷である島への唯一の移動手段で、それが今日で廃船になることを。
「どういうつもりで私をここへ連れてきたのかは定かでないが」
「それは……私もどうしてクラピカを誘ったのか、自分でもよく分からなくて」
「私の過去と重なったか?」
クラピカの一言は、気付きたくなかった愚かさを明け透けに露呈した。恥ずかしさと申し訳なさで、すぐにでも走り去って行きたい衝動に駆られたが、それを止めたのはクラピカだった。
私の腕を弱々しく握る無骨な手が、行かないでくれと。

「普段の私なら、馬鹿にするなと言っている所だが……」
「うん」
「故郷が失われるのは辛いな」
「そうだね」

近年続いた異常気象により島の環境は大きく変化した。人が住むには厳しい土地になってしまったため、全島民は避難を余儀なくされた。しかし、生まれた頃から長いことあの島で暮らしていた尊老たちの多くは最後まで島で生きていくことを決意した。