ずるいワーカーホリック
「もう!イルミったら働きすぎ!」
次のデートが数ヶ月先になるだろうと聞いたわたしは、前から思っていた不満をとうとう彼にぶつけてしまう。彼が忙しい人だというのは初めから分かっていたけれど、これじゃあ付き合っていると言えるのかすら怪しい。
イルミはわたしの憤慨をいつもの無表情で受け流すと、小さく肩を竦めてみせた。
「ちがうよ、ジャイ子が働かなさ過ぎなんだよ。この前始めた仕事、もう辞めたんだろ?その前の仕事だって1ヶ月も続かなかったじゃないか」
「だ、だってそれはイルミが……」
客は当然として、従業員ですら男と関わるのはだめという無理難題を突きつけ、それを破った(破らざるをえなかった)わたしをイルミがあの手この手で辞めさせたからだ。人口の約半分は男だというのに、全く関わらずに済ませるなんて不可能だと思う。ちなみに、この男と関わるというのはネット上の付き合いまで含まれるので在宅ワークも難しい。
「わたしがダメ人間みたいに言わないでよ。イルミさえ邪魔しなきゃ、私だって働きたいよ!」
「だめ」
「イルミが仕事で忙しくしてるから、その間わたし暇なんだもん。わたしだって忙しくなれば、イルミにこんなわがまま言わないよ」
「はぁ、ジャイ子は何もわかってないね。オレが忙しいからこそ、ジャイ子には働いてほしくないんだよ」
これみよがしにため息をつかれるが、全然意味がわからない。もしかして、監視の手間を増やすなということだろうか。ただでさえ忙しいのに目の届かないところに行ってくれるなと、この束縛男なら言ってもおかしくない。
でも、放置するくせに束縛するなんてあまりに都合が良すぎる。今日こそは言いなりになんてならないぞ、とイルミを睨みつけるようにして見上げると、彼はやっぱり「わかってないな」と呟いた。
「オレが忙しいのに、ジャイ子まで忙しくなったらもっと会えなくなるでしょ」
あっ、そうか。
なーるほど、と納得しかけたところで、不意にぐっと引き寄せられる。そしてそのままわたしをぎゅっと抱きしめたイルミは、やっとひと心地ついたと言わんばかりに息を吐いた。
「オレ、これ以上ジャイ子に会えなくなったら耐えられないよ」
「……」
ずるい。ずるい。そんなことを言うなんてずるい。
わたしは真っ赤になった顔を隠すようにして、彼の胸に額を押し付ける。
「だから言ってるでしょ!イルミったら働きすぎだって!」