SEKAI NO GORILLA


「ゴ・レ・イ・ヌ、しましょっ!」

―― 時は世紀末。世の中には、かつてないほど“ゴレイヌ現象”が蔓延っていた。どのTVを点けても、同じようなゴレイヌフレーズが延々と流れてゆく。
世界はゴレイヌで確かに平和となったのだ。

「はぁ……」

しかし、あたしはTVのリモコンを握ると深い溜め息をついていた。
いつから、こんな世界(ゴレイヌ)になってしまったのだろう。確かに、以前の激戦に乱れた時代と比べたら平和な世の中になったには違いない。だが、真の平和とは、そう長くは続かないのだ。

まず事の始まりは、念能力者の異変であった。
何故なのか原因は未だ解明されてはいないが、どの系統の能力者も一律に“ゴリラを出現させる能力(ゴレイヌ)”を発現させることしか出来なくなってしまったのだ。

そういえば、以前視聴したニュースでは、念能力者のその後の経過が取り上げられていたっけ。

(ゴリラ似のお堅いニュースキャスター)
「それでは、お聞きしますが……“ゴレイヌ”しか使えなくなった今、どのようなお気持ちなのでしょうか?」

(元暗殺者のIさん/※プライバシー保護のため音声は変えてあります)
「唐突に“ゴレイヌ”しか能力が使えなくなったときは驚いたけど、今はそれなりに順応してるかな。大きな争いも無くなったし、暗殺する機会が減ったことも事実。今後もこんな世界(ゴレイヌ)が続くのも……まぁ有りだとは思う」

世界の念能力者たちは、“ゴレイヌ”しか使えなくなったとしても、何ら問題ないと考えているようだ。 ―― ならば、何が問題なのか?
小学生以下の将来なりたい職業ランキングNo.1は「ゴレイヌ」。そればかりではなく、高校生以下でも同じように「ゴレイヌ」が堂々の一位なのだ。その圧倒的な、ゴレイヌ率……!
平和な世界(ゴレイヌ)になっている証拠である。

……が、ゴレイヌからゴレイヌへ、ゴレイヌは感染してゆくのだ。
実際問題として、巷では“ゴレイヌ被害”が拡大しつつある。

『あー、オレオレ。オレ、ゴレイヌだけど。ちょっとゴレイヌ貸してくれない?』

ゴレイヌドラマでも使われ、流行語大賞にも輝いたこの言葉は、今をときめく「ゴレゴレ詐欺」に専ら利用されているようだ。お年寄りの中からは、数万ゴレイヌを騙し取られたという甚大な被害も出ている。
世界が“ゴレイヌ”となってから、明らかな自殺者・殺人等の事例は減少の一途をたどっている。……が、弱小ゴレイヌ被害は、微々たる物ではあるが増加してきているようだ。
一家に一ゴリラが当たり前となった現代であるが、ゴリラを所有出来ない貧困家庭が存在することも事実なのである。

「ゴレイヌさん、どう思う?」
「それは、由々しき事態だな……」
「……じゃあ、まさか!」
「やるしかない、な」

そのゴレイヌさんの力強い返答に、あたしは顔を跳ね上げた。
何せ、世界が“ゴレイヌ”となってから一番苦慮していたのはゴレイヌさん自身だったのだ。(どこを歩くにしてもサインや握手を求められ、もみくちゃにされていたゴレイヌさんの姿は忘れたくても忘れることは出来ない。人気者の宿命なのだから……と己を諫めたものの、やはり“あたしだけ”のゴレイヌさんから“皆”のゴレイヌさんになってしまったことが悲しかったのだ。)

「オレが3人分になる、しかないだろうな」
「きゃあ〜! さすがゴレイヌさん、すてきっ!」

ゴレイヌさんのほとばしる正義は、世界に新たなゴレイヌをもたらすことになるだろう。
あたし、一生ゴレイヌさんします!一生ゴレイヌさんについていきます!

だから、どうかゴレイヌさんもあたしのことを離さないでいてね。

(Happy End)