add some more color


世界は色で出来ている。その色を織り成す光で出来ている。

世界は物で溢れている。その物を作り出す人で溢れている。

世界はいつも揺れている。その揺れに身を任せて変わっていく。人も、物も、光も、色も。


人によって世界は違う。
あの人も、その人も、この人も、見ている景色は全然違う。

「貴方は何色の世界を見ていますか?」

そう問われて、答えられる人はいるのだろうか。何を答えよう?今着ている服の色?目の前にあるベンチの色?そこに生える草の色?広く続く空の色?

単純に見える景色を聞いている訳じゃない、なんて事は直ぐにわかる。

だけど、なんと答えればいいのかなんて直ぐには分からない。

私だったら……私だったらどうだろう

私は……私は世界が見えない。子供の頃、私の世界から人が消えた。物が消えた。光が消えた。色が消えた。
でも、見えないけれど……聴こえるんだ。触れられるんだ。感じられるんだ。その色を。


ほらちょうど、今目の前を通りすぎた女性はピンクの空気を身に纏い、ふわりふわりと舞っている。
これから好きな人に会うんだろう。

そこに佇む男性は赤い空気を身に纏い、のしりのしりと沈んでく。
怒っているのか……はたまた、情熱にその身を燃やしているのか。

遠くの方の塊は黄色の空気を身に纏い、キャッキャキャッキャと弾んでいる。
楽しそうだなぁ。

私は何時だって色に溢れた世界を生きている。見えなくたって、肌に感じるこの世界は鮮やかで賑やかだ。色んな色に出会いたくて、何時だって私は外をさ迷っている。

今日も今日とて公園を歩き、ざあざあ水が溢れ落ちる噴水の前を通って家路に着こうとした……ときだった。

鼻を伝って衝撃が全身を襲う。折れては…いない。ただ特有のキーンとした痛みがじわりじわりと顔に渡って涙となって溜まっていった。

何かにぶつかった。でも、あの感触は……人?おかしい……だって

「人にぶつかっといて謝らないの?」「色が……見えない」

「は」「え」

「何言ってるの」「すいません」

「「あ」」

何故こうも被るのか。なんとも気まずい沈黙が訪れる。と言っても、前の透明人間が気まずさを感じているのか……いや、何を感じているのかさっぱり分からないけど。まだそこにいるのかすら分からない。あれは、本当に人なの?

「ねぇ君、目が見えないの?」

眼前で声がする。いつの間にこんな近くに来たんだろう。こくり、と首を縦に振ると
ふーん、と遠くの方で声がした。いつの間にそんな遠くに行ったんだろう。この人は色も無ければ音もない。もしかして…幽霊?

「うーん。君、なのかなー?」

あっ今、今一瞬だけ、色が付いた。何色だったかすら分からない。でも見えた……お化けじゃなかった…。珍しいな、こんなに見えない人がいるなんて。あれ…でもこの感じ。前にも何処かで……

「貴方、キルア君の……」

「軽々しく名前を口にしないでくれる」

牽制的に放たれた言葉が私の口を塞いでいった。激動の色が辺りに溢れかえり、肌を掠め、木々に纏い、葉を落としていく。

こんな色……見たことない。怒っている…のとは、違う。いや、其れもある。一言でどうなんて言い表せない。黒い…黒い…ただひたすらに黒い。

でも…それ以前に…怖い。怖い。全てが呑み込まれて行きそうな程。見たくないと願っても、目を瞑っても、色は伝わってくる。色が消えない。私にはこの色を消す術がない。

「お願い…止めて」「イル兄…」

私の声が届いたのか、彼の声が届いたのか。色が消えた。霧消…なんてものじゃない。凝縮した色を彼は真ん中に集め、消した。今度は別の色がふんわりと浮かぶ。

「や、キル」

弟…だったのか。弟にそんな色を向けるのか…。

「何しに来たんだよ」

「ちょうど通りかかってさ」

ぱっと色が切り替わった

「元気にしてるかい?キル。最近めっきり連絡を取ってくれないから、お兄ちゃん心配してたんだぞ」

なんて…なんて嬉しそうにしてるの。ピンクにオレンジが混じって黄色を加えたような色。さっきまであんな…あんな色を向けてたのに。

「お兄さん…なんですね」

私が横から口を出すと、また

ぱっと色が消えた

「そうだけど」

その後も彼は朗々とキルア君に向かって話していた。朗々と色めく傍らで、キルア君の色が悲しく、不自然に動いていく。キルア君がほわりほわりと色を溢す度に、彼の色が優しくそれを包み込み消していった。

これは…何?

見たこともない色の蠢き方。これは…

……異常だ。そんなにも愛おしそうな色を発しているのに、事実が色とそぐわない。

「キル。試合の方は順調かい?今100階にいるんだろ」
「チョコロボ君ばっかり食べてるんじゃないよ」
「キル。そろそろ次の試合が始まる頃だろう?早く戻りなよ」

ちらほらと聴こえてくる言葉は心配性なお兄ちゃんそのものなのに…

不気味な色のやり取りは次第に小さくなっていき、消えた。二つの色が、この世界から消えた。

また、消えてしまった…。キルア君の色。振り出しに戻ってしまった。あの時ここで出会って、少しずつ取り戻していったその色を。…ごめんね。キルア君。私、見ていることしか出来なかった。

「ジャイ子」

突然落とされた名前。はっ、と声の主を探したが、見付けることが叶わなかった。

「ジャイ子って言うんだろ。キルが言ってた」

「お前は、キルの何?」

「貴方こそ…貴方こそ、キルア君の何なんですか」

「知ってるだろ。キルアはオレの弟」

オレの弟、ね。オレはキルアの兄、とは言わないの?

「まあ、何でも良いや。次、キルに近付こうものなら、わかるよね」

冷たく切り裂くような空気が一直線に向かってくる。周りで揺れる木々すら濃紺色に移り変わって行くのに、こんな時でさえ、色を灯さないの?この人は。

声の発した方向に、いると信じる方向に手を伸ばし、触れた。閃光が瞬き、辺りを一掃するように風が吹き抜ける。彼も、彼も、まだ若い。キルア君の時と同じように問い掛ける。

「貴方は何色の世界を見ているの?」

_______無色の世界はつまらない。