ユーディットとホロフェルネス
“妹”のジャイ子は暗殺者として育てられてきた自身を忌み嫌っている。
仕事をするのは嫌だ、制約されるのは嫌だ、と散々駄々をこね、幼稚に地団駄を踏み、一生怠けて過ごしたいのだ、と悪びれることなく「ニート宣言」をしている。これでは自宅警備中(という名の引きこもり)ではあるが、それなりに仕事はこなしている
料理、洗濯、掃除……などの家事類は勿論一切ダメ。上昇志向もなく、何かを修める気は元よりさらさらない。その母親似の性格から繰り出される文句だけは一丁前。我が妹ながら情けないことに、唯一人並に行えるのが“暗殺”だけという、一家の“恥晒し”なのだ。
それでも、オレがジャイ子に見切りをつけられないのは、―― その“血の繋がり”ゆえだ。
父親の命で、嫌がるジャイ子を無理やり連れだしたのが本日のあらましである。
ジャイ子は返り血を一滴も浴びることなくターゲットを始末した。拍子抜けするくらいあっさりとした幕引きだ。普段からこのくらいやる気を出してくれれば、オレの心労も多少は減るだろうに。
「……あーあ、勿体無い。この人の顔、すっごくあたし好みだったのに。」
床に伏した遺体の顔を、ジャイ子は名残惜しそうに撫でた。死んだ男は“いかにも” ジャイ子が好みそうな顔貌をしており、父親の娘に対する“甘さ”が容易に見て取れた。
――父さんがそうやってジャイ子を甘やかすから、我儘に仕事を選り好みするようになるんじゃないか。
と、毒づきたくなってしまっても仕方がない。オレだってジャイ子のお守りをする時間があるのなら
「あたし、こんな素敵な人を手にかけるために来たわけじゃないのに。」
そう不平をこぼすジャイ子は、自らが嬉々として男の息の根を止めたことをすっかりと棚に上げているようだった。
快楽殺人者か、否か。もし大別するとしたら、確実にジャイ子は前者だ。屍を眺める恍惚とした表情が、その全てを物語っている。
「こんなもの一つで生死に影響が出るなんて、人間の命なんて呆気ないものよね。」
ジャイ子は事切れた肢体から心臓を抜き取ると、蓮の花を扱うかのように両手で優しく掬い上げた。
そして、まだ弾力のある心臓に顔を寄せると、そうっと唇を落とす。
すると当然ではあるが、手にも、顔にも、唇にも血糊がべったりと付着して、ある種心臓を貪り食っているようにも見える。見方によっては、“我が子を食らうサトゥルヌス”だ。
視覚的にも、衛生的にも非常によろしくない。
せっかく“無血”の完璧な仕事を成し遂げたとしても、こんな有様になるようでは何も意味がない。
はぁ、と、思わずつきたくもない溜め息をつく。
「……ジャイ子。馬鹿なことやってないでさっさと帰るよ。」
「あっ! 待ってよ、お兄ちゃん! ジャイ子を置いてかないで!」
ジャイ子は鼓動を失った“心臓”を床に投げ捨てると、血塗れのままオレの後についてきた。
いつだったか、こんな既視感のある光景を見たような気がする。わざわざ記憶を辿る必要もないが。
「お兄ちゃん、今日のことはちゃんとパパに報告してよ? ジャイ子だってやろうと思えば真面目に仕事出来るんだ、って!」
「はいはい、分かってるって。」
「それにしても、今日の
「それは相手にとっては朗報だったろうね。」
「ちょっと、どういう意味よ、それ? 別に良いでしょ、“愛された”って実感を持って死ねるんだから。むしろ感謝してもらいたいぐらいよ。
でもやっぱり、これっぽっちじゃ全く物足りないなぁ。……あーあ。運命の王子様、早くあたしのことを迎えに来てくれないかしら。」
血に濡れた唇でそんな夢物語をほざいたって、全く説得力がないのが滑稽である。それに、わざわざ“黒い絵”に近付くような健全な男がこの世にいるとは思えない。
たとえ、もしそんな“