Mommy for you!!
「おめでと」
いつも通りの無表情と無機質な声色。ホールケーキを両手のひらにのせ、どこのパーティに行ってきたのか三角帽子をかぶるイルミをジャイ子は一瞬悪夢でも見ているのだろうか、と思ってしまった。
微妙な表情を浮かべるジャイ子に、イルミは首を傾げる。まばたきを繰り返す大きな両目はぱちぱちと音がしてきそうだ。
「なにそのへんな顔」
「なにそのへんな格好」
タイミングはばっちりだ。全く同じタイミングで言葉を放って、お互い無言になる。見つめ合って数秒。口を開いたのは意外にもイルミだった。
「今日、誕生日だろ」
「え――」
「母さんが教えてくれてさ〜。もっと早く知ってればちゃんとしたケーキ用意してたんだけど」
覚えていてくれたのか――という言葉は続く言葉によって吸い込まれていった。お母様に教えてもらった……は、まだいい。だが「もっと早く」とはどういうことだ。
あれは数カ月前。たしかキルアの誕生日のときだ。
「そういえば、ジャイ子にも誕生日あるの?」
キルアの誕生日を盛大に祝い、心底嫌そうな顔のキルアを喜んでいると無理やりねじ曲げ満足そうにしながら、イルミは問うてきた。
それに対してジャイ子もハッキリと今日の日付で答えたはず。数少ない彼から示した自分への興味だ。忘れるわけがない。
それを、この男は……忘れているというのか。ジャイ子は、思わずため息をこぼす。
「(そんなとこすら、すき……)」
末期である。
「もしかしてジャイ子、いちご嫌いだった?」
回想からイルミへの想いを馳せているとマイペースマイワールドなイルミがホールケーキを見下ろし尋ねてきた。それに、ジャイ子はすかさず答える。「すき!」むしろケーキへ迸った想いの言葉ではない。
「そう? だったらいいけど。ハイコレ」
ジャイ子の勢いを特に気にした素振りもみせずイルミはホールケーキを手渡してくる。思わず両手で受け取ったジャイ子だったが、それっきり彼からアクションはない。
今度はジャイ子が首をかしげる番だった。
「たべないの?」
「え? 今?」
まさかの立ち食いホールケーキを提案されてしまい、ジャイ子は困惑した。無言なイルミに「今食べる」ということを肯定されてしまった。今、ここで。ひとりで……? それはさすがに……
「一緒に食べようよ」
せっかくの誕生日に好きな人の前でひとりでホールケーキなんて、虚しいことこの上ない。どうせならイルミと食べたい。
断られることもきちんと想定して最悪の展開を覚悟しながら彼女はイルミを見上げた。無表情な彼は、さほど唇を動かすことなく答える。
「いいよ」
ジャイ子は歓喜した。
そうして、その場でホールケーキを食べることとなった二人だが……、どうやって食べたかはあえて表記しないでおこう。その方が妄想が広がるだろう。おわり。