ビデオ
「ゴォォォォン!」
あさぼらけ 睡魔吹き飛ぶ 鐘の音。
寝ぼけ頭で思わず一句読んでしまったが、室内に響き渡ったのは静謐な朝には相応しくない変態の声だ。「あぁイイよ……ゴン……キミ、すっごくイイ!!」ベッドからのっそりと身を起こしたジャイ子は、いらいらしながら騒音の元に向かって念弾をぶち込んでいく。どうせまた、天空闘技場の試合ビデオでも見ているのだろう。飽きずに何度も同じシーンで興奮しているヒソカの姿は、これまで嫌というほど目にしてきた。
「おはようジャイ子、キミも朝から元気そうでなによりだ」
「あんたには言われたくないっての。ビデオ見るなら私がいないときにしてって言ったでしょ」
ジャイ子の念弾を受けてもピンピンしているヒソカは相変わらずの調子で、むしろビンビンになってしまったかもしれない。昨日の晩、早々に取っ払ってしまった下着を探してシーツの中でごそごそしていると、不意にぐぐっとベッドが沈み込んだ。
「クク……焼きもちかい?」
「は?」
「ボクがゴンのビデオを見てると、ジャイ子はいっつも不機嫌になるじゃないか」
「それはうるさいからなんだけど」
興奮したヒソカはうるさいしめんどくさい。関わりたくないからそう言っているのに、脳内血みどろお花畑のヒソカの手に掛かれば、このようなトンデモ解釈が飛び出してくるのだから困ったものだ。
起き上がろうとしたジャイ子の肩など、簡単に押し戻されてしまう。
「……私でヌかれるの、むかつくんだけど」
「プレイの一環だと思ってよ。ジャイ子を愛してるのは本当だからさ」
「どうだか」
ヒソカの腕の隙間から見た時計は、朝の5時半を指している。昨日も遅くまで付き合ったのに、元気すぎやしないか。「よそ見するなよ」頬に手が添えられて、よそ見してるのはヒソカでしょ、なんて言葉は深い口づけに遮られる。
――ヒット!ヒソカ、2ポイント!
後ろで聞こえる審判の声が、無粋でしかなかった。こんなプレイを喜ぶなんて、変態以外の何者でもないだろう。
「……ヤるならビデオ消して」
「ダァメ」
思わず漏れた舌打ちに、ヒソカはそれはそれは楽しそうに口角をあげたのだった。