願いはひとつ
月が我が物顔で夜空に居座るこの時間。
普段の自分ならば深い夢の中に居るというのに。
人工的な明かりが無い、この部屋で。そっと浮上した意識はきっと、愛しいあの人の帰宅を教えてくれた。
微睡みの中、無意識に伸ばした手はさらさらとイルミの髪の毛に触れていた。触り心地のよい、女からみても羨ましくなる長い髪。
大好きが溢れて仕方のない彼への、大好きを構成する内の一つに唇を寄せた。溢れ出して、止まらない。この愛おしさをどうやって彼に伝えよう。
「甘えたい気分?」
「………ふふっ…」
お帰りなさい。今日も大変なお仕事、お疲れ様でした。
一言ずつ噛み締めるように、彼の目を捉えたままで言葉を紡ぐ。まるで陶器でも扱っているのかと見紛うほど優しく、穏やかな手つきでイルミが枕に散らばる髪の毛を掬い取った。
「ただいま」
さながら童話に出てくる王子様。髪に口付けなんて、とんだ気障なことを。それでもイルミだから。彼の行動だから、早くなる心臓の音に合わせて、胸が踊り出してしまう。
「朝ご飯は一緒に食べよう」
「ええ。嬉しいです」
「……うん。じゃあ俺はシャワー浴びてくるよ」
−−−おやすみ、ジャイ子。
神に愛と未来を、私たちの全てを。イルミと共に誓い合った。けれど、欲張りな私は毎日、神に祈りを捧げてしまう。
彼が私の元へ必ず、生きて帰ってきますように。
湧き出て止まらない愛情と消えてはくれない不安を飼い慣らして。明日も愛しい、愛しい彼の帰りを私は待つ。彼の与えてくれる、揺るぎない愛をただ、信じて。