赤き魔性
彼の首を締め付ける鎖の鍵を、私は出会った時からずっと手に持ったままだ。もう彼を自由にしてあげたいと思いながらも、その緋色の瞳が私を捉えるたび、私は鍵を投げ捨ててしまいたくなる。彼の自由、それは即ち死だ。
「私と同じ瞳の色をしている」
彼がそう愛おしそうに私の頬を撫でる。嘘つき、私の瞳なんて見ていないくせに。夜明けを連想させる黄みがかった緋色と、ただ血管が透けただけの私の淡い紅の瞳は、全く別物だと賢い彼が気づかないはずはない。
「クラピカ、私はいつになったらこの部屋から出られるの」
最初はただ、カラーコンタクトを入れて欲しいという小さな願いだった。メラニンの欠乏により紅色に染まる私の瞳を、他人の目に晒したくはないと。彼の束縛は日に日に強くなり、私はもうこの部屋から一歩足りとも出ることを許されなくなっている。明け方になると、僅かな血の臭いを纏い帰宅する彼に「おかえり」と口付ければ、彼は震える声で私の名前を呼んだ。
「もう私にはドラ美しかいないのだ」
「そんなこと、ないよ。私がいなくてもクラピカには、レオリオやゴンやキルアがいるじゃない。ひとりじゃないよ」
気休めの言葉を口にすると、私の首に彼の爪が喰い込む。痛いよ、と小さく呟けば「私を否定するな」と彼は冷たい声を寄越した。私の存在をずっと否定し続けているのは、あなたのほうでしょと言い返したいのに、ごめんねと彼のことを抱きしめてしまう。
「奴等を全て殺して二人で村に帰ろう」
「それまで私はこの部屋から出られないの?」
「今はこの部屋が一番安全なのだ」
奴等――彼の同胞を滅ぼしたらしい幻影旅団を全て殺し終えた時、盲目の彼の瞳は漸く私のことを映すようになるのだろうか。はじめて私を見た彼は「裏切り者」と私を罵らないだろうか。あぁ私もきっと、彼の鎖で縛られている。ただ彼はこの鎖の鍵を持ってはいない。幻影旅団を滅ぼすことでしか、彼は鍵を手にすることは出来ないのだ。
「クラピカ、大丈夫だよ。私はここにいるから」
まだ大丈夫だ、彼が旅団を全て殺し終えるまでは、私は彼の側にいられる。彼が鍵を手にするまでは、きっと。
「私はドラ美を失うことが、なによりも恐ろしい」
私たちは互いのことを求め合っているのに、縛り合っているのに、互いのことを欠片も手にしていない。彼には失うものなんて最初から何もないというのに。
「大丈夫だよ、愛しているから」
その緋色の瞳が私のことを映さない間は、あなたのことを愛していられるから。
復讐という名の悲願が叶うとき、彼に二度目の絶望が訪れるのだろうか。彼の中にほんの少しだけでも、私を愛する気持ちがあるのならば、きっと。彼の絶望、それだけが今の私が持つ唯一の希望だった。