溶ける温度に、いつまでも


秋が過ぎて冬に近くなった寒空には、雲ひとつとしてなく私の心のように涼やかだった。白んで溶ける吐く息の行方を眺めながら、背後から近づいてくる愛しい気配に意識を注ぐ。

――とすり。

振り向くことをしないまま、気配の動きを待っていると背中に軽い衝撃。前のめりになってみせれば、衝撃から伝わる温もりがゆるやかに揺れた。

「……ドラ美」
「へへへ、おどろいた? わたしの絶どーだった?」

肩越しに振り返る。気温と走ってきたのもあってか鼻と頬を朱色にそめながらドラ美がしまりなく笑う。寒さなんて気にならないほどとろけた笑顔だ。涼やかだった己の心にさえ彼女の笑顔は明を灯した。

――おだやかなほどに変わらない愛しさが時折狂おしいほどに心にはびこって、衝動に駆られてしまう事をお前は知らないのだろう。

そんな思いをひた隠しにしながら浮かんだのは呆れを含んだ笑みだった。まったく、お前というやつは。なんて、あたかもしてやられたと言わんばかりに息を吐けば、ドラ美は悪戯っ子のように舌先を覗かせた。

「だって、クラピカってば寒そーに空見上げてるから今ならわたしの気配になんて気づかないかなって!」

私の、気持ちも知らずに。そんな風に――、

「おわ!?」

背中から回る腕を掴んで引き剥がす。驚いたドラ美の声を聞きながら、ドラ美の体を丸ごと……抱きしめて。「く、くらぴか?!」悪戯っ子の声が動揺にうわずって、緊張と恥ずかしさから体温と呼吸が乱れはじめた。
がっちりと閉じ込めた腕の中であわてふためく愛しい彼女の後頭部に顎が乗るほど強く、つよく――。


「お前が、そうだからオレは……、」


耳元で囁くクラピカのこえはいつもより低くて、首筋がぞわぞわってするのを感じた。どうしたんだろうなんて思うわたしに冬を待ちわびながら星空が笑うように輝く。
両腕が隙間もなく背中に回って、体温が背骨までじんじんと響いた。
本当は……クラピカがわたしに「どんなこと」を感じてるのか少しだけきづいてる。さっきだって、わたしの粗雑な絶にきづいてたんだろうなあとか、ちょっとだけ思ってる。だって、どれだけぼんやりしてたとしてもクラピカがコソコソ近づく人間にきづかないわけないもん。
それを「絶対」って断言しないのは、わたしがクラピカのこと知ったふりして話すにはまだ足りないから。クラピカって必要なことしか言わないから、隠してるってことは、きっとわたしには知られたくないんだろうなって思う。
わたしが、こういうこときづいてるってクラピカが知ったとき、離れていくかもしれないって予想しちゃうと……今はまだ知らないふりしてた方がいいのかもって。話してくれるまで待ちたいなって思う。

「ね、ねえ、クラピカくるしいよう……」

わたしの気持ちなんてしらずに、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる彼の呼吸を聞きながら背中をぺしぺし叩く。それでもクラピカは離すどころか、またぎゅーって腕に力をこめてきた。も、もう……

「(あ、あつい……っ)」

耳がかっかして、呼吸が苦しくなる。足元は木枯らしにさらされて寒いのに、クラピカと触れ合ってる場所だけが、溶けそうなくらい熱かった。
それでもこの腕を引きはがせない、のは……きっと。
クラピカの呼吸もわたしとおなじくらい熱くとろけそう、だったからだ。