ビードロ玉


 カンカン照りの太陽。肌が焼けるんじゃないかってくらい暑い。ジジジと鳴くセミ。精一杯命を燃やしてる。そんな中、私は一生懸命じゃりじゃり音を鳴らして小石をかき分けていた。滝のように流れる汗はどれだけタオルで拭いても流れてくる。水分を含んだタオルは湿っていて気持ち悪い。これじゃあ意味ないやと、乱暴に自分の腕で汗を払った。そして見えてきた湖。バースの先には釣竿を垂らした男の子の背中が見えてきて、やっとだぁ、長かったぁと、安堵のため息をこぼす。
「ハロー、ゴン」
 名前を呼ぶと、麦わら帽子を被った少年は私の声に振り向いた。
「来てくれたんだ!」
 頭のてっぺんにいる太陽に負けないくらいの眩しい笑顔を向けられて、「当たり前じゃん」なんて思ってもなかった言葉がでてきた。びっくりした。頭からはジリジリの太陽があってバカみたいに暑いし、そのせいでアスファルトから蜃気楼が見えたし、上も下も暑いせいで滝みたいに汗が流れて最悪。家で扇風機つけて涼んでたらよかったなんて思ってた。だけどゴンの元気いっぱいの笑顔を見たら全部とんでっいったから「あれ?」って驚いたの。
 私もサンダルを脱いで、ゴンの横に座った。水面までの距離が短くて自然と足を突っ込む形になるけど、これだけ汗だくだくだと、足だけじゃなくて全身浸かりたい気になる。
「ゴン、これあげる。重かったんだよ」
 がさがさと鳴るカバンの中から変なくぼみのあるそれを取り出して渡すと、ゴンは嬉しそうに「ありがとう」って言った。つられて私も顔をほころばせた。
「オレ、ラムネ好きなんだ」
「私も」
 ゴンはべりっとプラの外装を破って、頭にのった蓋を取り出した。飲み口の部分に挟まったビー玉を押し入れようとして、手のひらでピンクのフタでぐいーっと押し込む。一気に力を入れてビー玉を内側に入れると、炭酸がしゅわっと勢いよく吹き出してきた。
「あーーっ!」
 やっちゃった〜と落ち込むゴンにサイダーがかかって服がベチャベチャ。私は横で笑ってゴンを茶化す。
「ゴンってばラムネの開け方も知らないの〜?」
 ニヤニヤしながら言うと、ゴンは悔しそうにこちらを見上げる。お手本だと私も自分のラムネ瓶に蓋を押し込んだ。炭酸が吹きでてもいいように、腕を伸ばすっていう予防線を張って、しゅわしゅわが消えるまで5、6秒待った。
 そろそろ落ち着いたかな?と確認すれば炭酸をこぼさずに蓋を開けることができて、自慢げにゴンを見せてみた。「どう?」と聞くとゴンは口を尖らせて「次は失敗しないもん」だって。
「ラムネ好きだもんね」
 嫌味のつもりで言ったのに、「うん!」なんて素直な返事が来て拍子抜け。ぐいっとビンを傾けた。喉に通るぱちぱちが気持ちいい。横目でちらりとゴンを見れば、口の部分にビー玉を詰まらせてたみたいでがんばって舌を伸ばしていた。
「あはは!あのねゴン!ラムネってビー玉引っ掛けるとこあるんだよ!」
そうやって伝えると「うそー!」なんて信じられないもの見るみたいにビンをじろじろ確認して、見つけたらほんとだって笑った。2人でごくごく飲み干すと、瓶の中で光るビー玉を取り出して湖でベタつきをとる。太陽に透かした硝子玉に「あ」っと思ってゴンを写してみる。
「ビー玉ってさぁ」
「ん?」
「反対側の世界が見れるんだよねぇ」
 硝子越しでもわかる、きらきらに光ったその目は透き通ってて、ビー玉みたいにとても綺麗だった。
「ほんとだ」
 目を細めて笑うゴンに、ずっと変わらないでいて欲しいなって思ったの。これは世界でたったひとつだけの硝子玉をみつけることができた素敵な夏の日。