07
「し、し、ししし死体だぁぁあああああ!!!しかものど元を一突きされているじゃあないかぁ!!!」
「康一くん、落ち着いて」
なだめるように声をかける由花子
「落ち着いてなんかいられないよぉ!人が死んでいるじゃあないかっ!!!」
わなわなと震える指でこの美術館のオーナーらしい真中を指差し声を荒げる康一。
「大丈夫。私がいるわ、」
さらに康一にぴとっと、寄り添った由花子。
全く堪えてなさそうな由花子の様子に舌を巻く優。
むしろ弱っている康一君に寄り添って支えているこの状況に
いつもより生き生きしているようにみえるのは気のせいかな…、
優だけじゃなく、蘭や小五郎、コナンも苦笑いを浮かべていたので気のせいじゃあない・・・。
ほどなくしてやってきた警察に事情を説明することとなった。
「えーっと、第一発見者は・・・」
茶色のコートに身を包み同色の帽子を被った男性の言葉に答えたのは小五郎。
「彼らです。」そういって視線を康一と由花子へと促す。
「・・・また、お前さんか」呆れた顔を浮かべながら小五郎を見る男性。
「ハッ!!もちろん死体には誰にも触れさせておりません、目暮警部殿!!」
どうやら、目暮警部とやらと小五郎は知り合いのよう。
それもそうか、元刑事の経歴があったものね、と優は自身の調査資料を思い返す。
「君は?」
「広瀬康一です。僕は由花子ちゃんと優さんの案内で東京を観光してました。僕たちが地獄の間に来たのは5時すぎでした。
奥に飾られている『天罰』って絵を見た後振り返ったらもうっ・・・!!」
現状を思い出し、発見時と同様にわなわなと震えながら話す康一に
つられて優も思い出してしまう。
ホラーは駄目なのに・・・。
優がそんな小言を漏らしたくなるのも仕方ないだろう。
SPW財団で優が承太郎に仕事のことで怒られたときを思い出すほどの参り具合だ。
承太郎が本当に怒る際は淡々と、怒っている時ほど頭がさえるタイプなのか静かで、とにかく的確に痛いところを突いてくる。
そう、195pの大男が腕を組み仁王立ちし揺らぐことのない碧色の瞳を優にむけて、
にこりともせずに、だ。
お叱りを受けることとなったのは、優の無茶な行動によるもので仕方のないことでもある。
承太郎が言っていることには間違いはなく、
それ故に返す言葉もないのだから本当にいたたまれなかった。
空間転移の能力を有する優のスタンド、クリスタル・マイヤーズによって
承太郎の目の前から逃走しようと本気で考えたくらいだった。
そんな承太郎による説教を超える怖いものは優の今後の人生ではないだろう
しかし、
苦い想い出を思わず頭に過ぎらせる位にはこの事件は堪えた。
くそぅ、リフレッシュの予定だったのに・・・。
優はうっかり負のスパイラルに陥りそうな思考を無理矢理断ち切って、
深呼吸をすることで自身を落ち着かせる。
「由花子さん、というのは・・・」
「私が山岸由花子です。康一君とは・・・お、お付き合いをしていますっ、」
頬を少し赤らめながら目暮警部に伝える姿は恋をしているまさに女の子である。
ここが事件の現場じゃなかったら微笑ましいと笑えたが、
今はちょっと空気を読んでほしいところである。
優は由花子のマイペースさが羨ましいとともに恨めしくも思えた。
「で、優さんというのは?」
「あ、はい、私です。如月優と申します。私は康一くんの言う通り彼らの観光案内をしてました。」
目暮警部は、優を見ながら質問を重ねた。
「失礼ですが、彼らとの関係は?」
「私は宮城出身で、大学を卒業するまでは地元に居たのでその頃共通の知り合いを通して知り合った仲です。
彼が米花美術館の入場券を頂いたことをきっかけに、東京に居る私が案内することになったんです」
優が警部に述べた話に康一は頷いて、同意を示した。
「なるほど・・・優さん、あなたのご職業は・・・?」
「へっ・・・?」
優は思わず間抜けな声を出した。
「職業ですよ、ご職業!」
きっといつもの形式的な質問の一つなのだろうが、そんなことは今の優にはどうでもよかった。
空調の聞いた美術館で、優はじわりと吹き出る汗をひしひしと感じていた。
ま、まずい・・・考えてなかったっ!
その焦りはきょろきょろと泳ぐ優の視線からも窺えるほどである。
コナンや蘭がいなかったらSPW財団といって優の本来の身分を明かすのだが、
彼らと接触している今は、優は一般人で居るほうが都合が良い。
もし仮に彼らの近くに敵のスタンド使いが居たならば、
優が彼らにSPW財団と明かしてしまうことは、敵にもそれが筒抜けとなってしまうことに等しい。
そうなってしまえば、対決が必至となり攻撃力皆無の優のスタンドでは守ることさえ難しくなってしまう。
一般人としてさりげなく傍に居て守るに越したことは無いのだ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・
頼りになる優の上司も、仲間もはここにはいない。
優自身の力でどうにか切り抜ければならないが、
そう考えれば考えるほどいやなプレッシャーが頭の回転を鈍らせた。
目暮警部を筆頭に、小五郎、蘭、それにコナンなどの周囲の疑心の瞳が優に集中した。
まずい、こんなとちり方をして正体がばれたなんて知れたら・・・、
と優は承太郎が自身の前に仁王立ちするあの景色を思い浮かべた。
また説教を受けかねない・・・。
あんな厳つい人に姑のようにつっつかれるなんて、いやだ。
意外とねちっこいからなおさら・・・いやだわ。
優にとって承太郎の説教はもはやトラウマレベルなのであった。
強い拒否反応に鳥肌がたつ。
「優さんは、ヒトデの研究をしている海洋冒険家の空条承太郎さんの助手ですよ!」
こ、康一君っ!
思わず康一の顔を見た優に、康一は笑顔で
「そうですよねっ!」と振った。
「え、えぇ!すみません、名刺は今きらしてまして・・・」
優はとりあえず康一の方便に上手く乗っかって誤魔化す。
康一君、君はすごいよ。改めて康一の凄さ実感した優なのであった。
由花子が康一に惚れた理由も、
承太郎が康一をかっている理由も、
本日、身をもって理解した優。
優は、不思議そうな顔をする目暮警部を笑顔で押し切って捜査の続きを促した。
すると、犯人を捉えているかもしれない防犯カメラの映像を見ることとなった。
驚くべきことに映像では、中世の甲冑が動き出し、真中オーナーを切りつけているのであった。
「天罰」という絵を捩って殺害されたことは分かっても、
甲冑の中の人物がわからず、結局のところ犯人は分からずじまいだった。
しかし、小五郎たちの証言によって午後4時すぎには立ち入り禁止の立て札があったことがわかった。
加えて、
「僕たちが5時すぎに地獄の間に来たときには立ち入り禁止の立て札なんてありませんでした」
という康一の証言から
犯人によってその立て札を事件現場が客の目に触れないよう置いたものであり、
そのことから、目暮警部は甲冑の保管場所や犯行現場の位置関係を熟知した美術館の関係者であると推理した。
確かに、そうだろう、と優は思う。
それに犯行現場の周辺には本来置いていた美術品が無く、難を逃れた作品がいくつもあるらしい。
美術品を事前に移動させておく事はここでこれから犯行が起きることを知っていた犯人のみである。
また、わざわざ「天罰」という作品に捩って犯行を行った思考からも
犯人が美術品に興味を持ち、それらを非常に大事に思っている人間であることが窺えるからだ。
などと優が考えているうちに、
勝手に防犯カメラの映像を見直していたコナンが真中オーナーの不審な動作に気付いたらしい。
真中オーナーは近くにあったペンで犯人の名を記し、その紙を握ったまま亡くなった事が新たに分かった。
紙にはクボタという文字。
動機も十分にあり、アリバイを実証してくれる人物は存在しない、また彼のロッカーから犯行に使用された甲冑が発見されたことで
真中オーナー殺害事件の犯人がクボタ氏で確定しようとしていた。
優は状況証拠としてはクボタ氏が犯人であることは明らかだと分かるが、
先ほど考えていた犯人像と一致しないことに違和感を抱いていた。
美術品を売りさばいているようなクボタ氏が犯行現場の美術品を事前にどかして置くとはどうも考えづらい。
ならば、本当に偶然にして美術品は難を逃れたのだろうか・・・。
優は、探偵でもないので下手に口を挟まず、違和感を胸のうちにしまった。
なんにせよ、これがいたって普通の殺人事件でよかったと安堵する優。
スタンド使いによる攻撃であったならば、一般人を守りつつ戦うのは優の攻撃力の乏しいスタンドでは正直難しい・・・。
優が、漸く収拾がつきそうな事のなりゆきをぼーっと見つめていると、
コナンが目に付いた。顎に手をあて、何かを考え込んでいた。
その表情は探偵さながらであり、さすがミステリー好きの少年だ、と優は納得しようとしていた。
すると、
「あの子、変よ。」
コナンを視線の先に捉えたまま、由花子が優にだけ聞こえるよう言った。
「え?」
由花子が自ら優に話しかけるという珍しさに思わず間抜けな返事をした優。
「だから、あの子よ!あの死体を見たら普通怖がるのに、ぜんぜん平気そうだし。
ちょろちょろ動いては捜査が進展するような手がかりを見つけてるわ。」
綺麗な顔の眉間に皺を寄せながら優をにらみつける由花子。
いつもだったら決して優に自身から接触してこようとしない由花子なのだが、
いったいどうしたのか…。
「・・・気付かなかったわ、伝えてくれてありがとう」
とりあえず、優は余計なことを言わずにお礼を述べる。
「べ、別にっ・・・康一君があなたに伝えたほうがいいって言うからっ!」
ですよね。心の中で即座に返す優。
本当に康一は偉大である。あの由花子ですら大人しくなるのだから。
照れ隠しで、ふんっと顔をそらして康一の下へと戻ってしまった由花子を優は目で見送って、
コナンを見やる。
やっぱり、気のせいじゃないか・・・と優は言つ。
今回の事件での彼の立ち回りだけではないのだ。
初めてあった際に、優が蘭たちを探るような目でみて以降、コナンは優を警戒しているようだった。
純真な瞳でうまく誤魔化しているようだったが、ときたま見せるじーっと勘繰るような視線は隠しきれていない。
蘭と優が会う際にはいつも傍にいてまるで優から蘭を守るナイトさながらだった。
それが、小さな子どもが好きな女の子を奪われないように見せた嫉妬心でれば可愛らしいと見過ごせたが
きっと違うと、優は感じていた。
確証も何も無い、感覚に頼った優の穴だらけの推察でしかないが、
人を見る目のある彼女、由花子もコナンを"変"といったことが優の推察に自信を与えた。
一方事件は、一本のボールペンを契機に解決へと進んでいく。
真中オーナーを殺害し、罪をクボタ氏に擦り付けようとした美術館館長の落合だった。
事前にクボタという紙を書いて置いておく。
そしてオーナーが書けないペンで上からかき消そうとするしぐさを防犯カメラを見た警察に
遺体に握られた紙はオーナーによって書き残された最後のメッセージであると勘違させることが目的であったようだ。
書けないペンを持っていること、クボタ氏にアリバイを立証できない環境を作ることができた人物、
総じて落合が犯人という結論である。
一見、小五郎と目暮警部の会話の最中で事件が解決していくように見えるが、
書けないペンを落合館長がもっているとわかるきっかけも、
すりかえられて落ちていたペンのペン先が引っ込んでいるという補足をしたのも、
すべてコナン君であると優は理解していた。
あぁ・・・、この子は普通じゃあない。
優はターゲットの二人がスタンド使いでないことに安心し、
それ以降はコナンと蘭の周辺に目を向けていた。
だが、もう一度彼らについてよく調べる必要があると優は考えを改めた。
優の単独任務は初であり、正直上司の承太郎に漸く認めてもらえたからこそであると捉えていた。
浮かれていた、といえば否定できない。
だがいま、優は単独であるからこその孤独感や、リスクを再認識していた。
そんな優が今平静で居られるのは、優の正体や状況を少しは理解している康一と由花子の存在のおかげだろう。
警察につれられて行く落合館長を目端に捉えながら、
「康一君、由花子ちゃん、行きましょう。」
優はそっと二人に声をかけ静かにその場を去る。
「優さん、よかったんですか?お知り合いの方たちに声をかけなくて。」
気遣うように優をみる康一に
「えぇ。もしかしたら・・・仲良くしてはいけない相手、かもしれないから。」
優は車に乗り込みエンジンをかけながら答えた。
「それって・・・!」
思いもしない返答に驚いた康一は後部座席からルームミラー越しに優を窺うように見た。
反射してよく見えず、優がどんな顔をしていたのか・・・
康一は知らない。
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