私が知っているリンクはいつもよく笑っている。人懐っこくて、素直すぎるあまり欲望に忠実、あと過保護。たまーに見せる意地悪な一面には手を焼くことも多々あるが、それを含めて茶目っ気たっぷりの可愛い人だと思う。可愛さは内面だけでなく、その中性的な顔立ちは化粧なしでも男子禁制の街をすんなりと潜入できるのだから驚きである。しかも普通に可愛い。一応リンクも男の子だから女装は嫌がるかと思いきや、失った記憶を取り戻した今でもノリノリで女装している様子を見るあたり、そういう趣味は多少あるのかも?...その辺に関してはお互いの性癖が歪む恐れもあるため敢えて聞かないことにしている。
私や旅の中で知り合った友人たちがリンクの似顔絵を描いたらきっと描かれたリンクは優しい顔をしているだろう。だから寝坊助さんが忘れたお昼ご飯を届けに復興途中のハイラル城へ足を運んだ際、中庭にズラリと並んだ訓練兵の先頭に立つ指揮官が誰なのか一瞬目を疑ってしまった。

(リンク?)

石柱の影に身を潜め見覚えのある横顔を遠くから眺める。退魔の剣を背に携えた彼は紛うことなきお昼ご飯を忘れた寝坊助さんのはずだけど...見慣れた青い服ではなく紺色の上等な制服を身に纏う表情が硬い人物はリンクでありリンクじゃないみたい。実は双子の兄弟がいたのでは?そんなことを言われたらあっさり信じてしまうくらい瓜二つの別人に瞬きが止まらない。丸く柔らかな眉はキリッと斜めに上がり、円弧を描く口角はムッと不機嫌に下がっている。威圧感たっぷりの視線。目が合った途端、腰が抜けてしまうほどギリリと引き締まった横顔は子供が見たら泣き出すかもしれない鬼教官っぽさがちらつくが、普段の子供っぽい彼と比較しどっちがいいか問われたら数時間は悩むかも。だってこっちのキリッとしたリンクも捨てがたい。勿論いつものリンクも頼もしいの意味でかっこいいけれど、絵に描いたような凛々しい騎士の横顔は乙女心をくすぐる魅力がある。幼い頃に読んだ絵本で描かれた姫様と騎士様のお話。跪き忠誠を誓い手の甲に口付ける騎士様に近所の友達とキャッキャキャッキャと頬を赤くし、私も大人になったらお姫様になって手の甲に誓いのキスをしてもらうんだ!と意気込んでいた頃が懐かしい。結局私はお姫様ではなく村娘から旅人となり今は主婦へとジョブチェンジしたが、幸運にも旦那様は元英傑様である。案外ノリがいい性格だから必殺『一生のお願い』を使えば跪いて恭しく手の甲にキスしてくれるのではないだろうか。帰ったら頼んでみようか、彼の好物で釣れば案外上手くいくかも。そんなことを考えながら食い入るように硬い横顔を見つめていると突然城内から鳴り響くお昼を知らせる澄んだ鐘の音に握りしめていた包みの存在を思い出す。そうだ、私リンクのお昼ご飯を届けに来たんだった。整然と並んだ訓練兵達が散らばり始めタイミングを見計らい影から飛びだす。突然押しかけて迷惑だっただろうか。そんな心配を抱きつつちゃっかり二人分お昼ご飯を手になまえは一人どこかへ去っていく背中を見失わぬよう周囲の目を避けながら追いかけた。


明日は一日休みなんだと“休み”の部分だけを謎に強く強調しぐりぐりと肩口に頭を擦り寄せ背中に引っ付いてくるリンクにそうなんだねぇと適当に相槌を打つ。生憎今夜はリンクとじゃれ合う気分じゃないの。お城に寄ったついでに人手が足りないからと夕飯作りの下準備を手伝い疲労困憊。目を瞑れば今すぐ眠れるくらいには疲れている。それでもお仕事頑張ってきたリンクのため、体に鞭打って健気に夕飯作りに勤しむ私に対しもっと構ってくれと掘削機のように頭を押し付けてくるリンクさん。疲れた日は誰かに甘えたくなる気持ちはわかるけれど、そんなに激しく体を揺らされると手元が狂いそうになる。包丁を持ってる人に悪戯してはいけませんと教わらなかったのか。元記憶喪失に問いただしたところで刃物を扱い慣れたリンクはこのくらいの揺れじゃ狂わないよと平気で言い返すのだろうけど。

「ご飯作り終わったら構ってあげるから、ね?だから今は離れて」
「あとじゃヤダ。今がいい」

いつもは聞き分けがいいのに、今日に限って赤ちゃん返り。何か嫌なことでもあったの?と背中の蓑虫へと振り返ると話し難い内容なのかウーンと不機嫌に唸りながらもどさくさに紛れて衣服越しに首筋に唇を這わせてくる。もうリンクったら、こんな所で盛らないで。襟元を濡らしながら情事を連想させるかのように吸い付いてくる頭に狙いを定め容赦なく拳骨を落とせば小さな呻き声が耳元で上がる。これで少しは懲りただろう。包丁を握り直し夕飯作りを再開しようとするなまえだったが懲りるどころかリンクの行動は徐々にエスカレートしていく。
お腹の前で緩く組まれた手は胸を持ち上げる位置でさりげなく下胸に挟み込み、徐々に熱を帯びる耳にふっと息が吹きかけられるとゾワリと肌が粟立つ。反応したら負け、流されたらおしまい。蜂蜜とバターをいっぺんに口に含んだような、胸焼けがする甘ったるい香りで夜を誘うリンクになまえはなんとか集まる熱を冷静に対処していく。
時刻はまだ七時過ぎ。今日の日記もつけてないし、穴の空いた英傑の服を縫わないとどんなに鋭い睨みを効かせても部下に影で笑われるのはリンクだ。かっこいい英傑イメージを守るのは私の腕にかかっている。今潰れるわけにはいかないの。一方的な執拗いじゃれあいに絆されるものかと、ひっつき虫がいない体を装い淡々と野菜を切ろうとするなまえだが、固い意思に反し従順に震え出す体に気を良くしたリンクは胸の柔らかさを確かめるように包むように揉み出す。厭らしさを感じさせる絶妙な力加減にまったりと熱っぽい声が喉まで這い上がり、唇をの隙間から漏れ出す前にグッと下唇を噛み息を止める。喘ぐな私、冷静になれ私。働いてきたリンクもそうだけど、今日も立派に主婦を務めた私もお腹が悲鳴をあげるほど腹ぺこなのだ。たとえリンクが人の三大欲求である食欲を性欲と睡眠欲で賄えるハイブリット人間だとしても、私はしっかり一日三食食べないと餓死するか弱い人間で。いくらリンクが獣のように盛り可愛くおねだりしてきたとしても食欲だけは譲れない。むしろ私の欲は食欲で成り立っていると言っても過言ではない。だから料理中に服を脱がしにかかるのはやめて。
依然として片手は胸を揉み、もう片方の手は首が詰まった衣服に手をかけ器用に金具を外すと露出した首筋に吸い付きピリッと微かな痺れを刻んでいく。手元はかろうじて動いているものの一口サイズで切ったはずの野菜は大きすぎたり小さすぎたりと、とても一口では口に入らない。ああ、もう!

「リンク、怒るよ!!?今すぐはなれて!帰って第一声がお腹空いたって叫んでたのはどこの誰でしたっけ!?」
「さぁね。今はご飯よりなまえとじゃれ合いたい気分」
「残念、私はご飯が食べたい気分なの。食べ終わったら構ってあげるから、ほら、はなれて」

具材を入れたボウルを抱え外に出る。慣れた手つきで石鍋の下に薪を入れマッチで火をおこし鍋が温まるのを火の粉が飛ばない位置で待機。カロンっと牧の山が崩れる音がしたらあとは調味料と具材を鍋に放り投げるだけっと。なんで小さな鍋に放り込むだけで美味しいご飯ができるのか謎だけど余計な手間も掛からずすぐ作ってすぐ食べられるのだから便利な鍋だなぁとありがたい代物に心の底から感謝し、特に深くは考えていない。たぶん鍋に鍋の妖精かなにか宿っていて美味しくなる魔法をかけているんだと思う。ありがとう妖精さん。
今日はリンクの好きなチーズ増し増しのカボチャスープだよ?と日が落ちたとはいえ外でもぐずる夫の機嫌を取りにいくも、何故か今日は手綱が上手く握れず不貞腐れたように頬を膨らませたまま無言で構えとアピールしてくる。ほんとに今日はどうしちゃったのだろう。あまり自分の事を話す人ではないし、旅人は詮索されることを嫌う。目的は違えど元旅人同士、なにやら聞いてほしそうな顔をしたリンクに彼の地雷を踏まないよう顔色を伺いながら今日嫌なことでもあった?と城での出来事を尋ねてみる。すると胸を揉み続けていた手はピタリと止まり、ゆるゆると顔を上げたリンクはいかにも『不機嫌です』と眉間に皺を寄せて口はへの字に曲がっていた。城で見た不機嫌さとは違い色がのった表情に当たり前ではあるけれど、ああ、この人は私が知ってるリンクだと安堵する。

「それで、その不機嫌そうな顔の原因はお城にあるの?」

再びキュッとお腹に回った腕に話したら楽になるよ?とあやすように軽く叩く。いつもなら放置して解決を図る私も、ここまで調子の悪いリンクを見たのは初めてで、とても冷たく突き放すようなことは出来ない。構ってあげるよと腕を広げ受け止める体制を整える。しかしそれでも言いにくいのか、リンクは肺が凹むほどに息を吐き、肩に顔を埋めたまま粘りに粘り渋りに渋った後、ようやく結んだ口をゆるゆると解く。

「...今日、なまえが、お昼ご飯届けに城にきただろ?」
「そうだけど、迷惑だった?」
「迷惑じゃない、迷惑じゃないけど...アイツら、なまえが俺の嫁って知らないから、あの使用人の子可愛いなあって、勝手になまえで汚い妄想して笑ってたのを見てイライラしたというか」

アイツらとは...ああ、騎士見習いの訓練兵達の事か。一応目につかないよう移動していたつもりだったけどあんなに人が大勢いたら目につかないわけ無いか。
ゼルダ姫の努力とハイラル復興を望む人達の力もあって少しずつお城の再建は進み、それに伴い仕事を求め人も集ってきてる。兵士も、庭師も、土木職人も。しかし荒れた城の復興に必要な物資はまだまだ不足し働き手全員の制服も揃えられない状況の中、村娘衣装で城を歩いても使用人と間違えられることなんてよくあること。むしろ制服を着ている人=重役もしくはベテラン等々比較的偉い人であり、リンクもその一人である。
正直、訓練兵達の性欲事情なんて知らないし騎士になるならそういう欲は抑えた方がいいと思うのだけど、毎日大変な訓練に勤しんでいる事だし、妄想ぐらい許してあげたらどうだろう。これがゼルダ姫相手に汚い妄想をしていたならばリンクが怒る気持ちもわかるしリンクに便乗して怒鳴りこみに行くところだけど。

「私は別に気にしないよ。何かされたわけじゃないし...」

リンクだってえげつない妄想の一つや二つしてるでしょう?と諭してみるが何故かリンクの怒りは勢いを増し「そういう問題じゃない!」といつも甘々な対応の彼が珍しく噛み付いてきた。

「俺“は”気にするの!!そもそも寝坊したのもお昼ご飯忘れたのも全部俺の自業自得だからなまえがわざわざ持ってくる必要はなし。それと今後同じ轍を踏まないようなまえは城に来るの禁止!分かった!?」
「えっ、なんでそんなことになるの?」

ハイラルの勇者様ビックリするほど横暴すぎるんだけど。城に来るなって、自分の仕事場に身内が来て欲しくない気持ちは何となくわかるけど城に来るなは酷いのでは?器が小さいぞ近衛騎士!それでも元英傑か!大人気ないぞ!!と不満を零せば痛くも痒くもないね!とやけに強気に腕を組むリンク。くそ、さっきまでぐずっていたとは思えない変わりように呆れて言葉も出ない。門番の人にも伝えておくからと真っ直ぐな眼差しで城への出禁を行動に移そうとしている元英傑の立場を利用した極めて悪辣な職権乱用にこれはまずいと慌てて待ったをかける。だって城に入れなくなったらゼルダ姫とお話しすることも出来なくなるし、お城に来たついでにこっそりとリンクの仕事姿をこれから永遠に見れなくなるなんて...

「...お城で働くリンクが見れないのは寂しいなぁ。いつものリンクも素敵だけどThe騎士様!って感じの凛々しいリンクも捨てがたいのになぁ〜」
「あれは仕事用の顔だから、なまえに見せるものじゃないから。...ちょっと待った、君いつから覗き見してたの?」
「覗き見とは失礼な!夫の仕事ぶりを見学していたと言って欲しいな」

恥ずかしいからやめてと照れる顔を覆うリンクにしめた!と心の内でにっこりと笑う。形勢逆転をいいことに今度はなまえが強気に「えー、どうしよっかなぁ〜」と揶揄ってみる。さながら授業参観日を楽しみにする親と来て欲しくない子供の攻防である。「城の出禁は冗談だから、来る日は事前に教えてくれたら何も言わないから!」と急に手を合わせ譲歩しはじめるリンク。そんなに私が仕事場に来るのが嫌なのかと問うと、「別にそうじゃないけど。他の男に自分の嫁がオカズにされるのは気に食わないというか...」と歯切れが悪い返答で眉を顰める表情になんと器も小さければヤキモチ焼きなんだとほんの少しだけ胸がキュンとした。どうして訓練兵達がそこまで欲求不満なのかは知らないけれど、まぁ、リンクがこそまで言うならお城へ行くのは少しだけ控えようかな。あーでもでも、

「ねぇ、リンク。お城に行くの控えるから、その代わり一回だけでいいからお仕事用の顔で騎士らしく私に跪いてくれない?」

頬に手を添えコテンと首を傾げる。リンクがこれに滅法弱いことは承知済み。キラキラお目目で情に訴え下から見上げることであざとさを演出。あとは精一杯の可愛さでお願いし『一生のお願いだから』を添えればチョロ...嫁想いなリンクはきっと喜んで頷くは「悪いけどその頼みは聞けないんだなぁ〜」

「俺、家と仕事はきっちり分けるタイプなんだよなぁ。それになまえは俺の嫁ではあるけれど主君ではないし、いくら可愛い嫁のお願いでもそれだけは無「今日はリンクの好きにしていいから」しょうがないなぁ〜!!!」

よし、ちょろい。さすが欲望に忠実な男。
明日が非番なことを良いことに朝は俺が作るよと抱き潰すことを前提に話を進め出すリンクになまえは全くもうと盛大に溜息をつきながら鍋に材料を放り込んだ。
ふざけないでね?やるからには本気でやってよ?気味の悪い仮面とかネタに走った服とかやめてよね!??リンクはすぐに遊びだすから、前もってこれは遊びじゃないからね!とキツく釘を刺しておくと彼は分かってるって!とルンルンで所構わず身体をまさぐってくるものだから凄く、不安だ。リンクが約束を破った時のことを備えて今からでも宿を取りに行った方が...でもまあ、信じてあげないのも可哀想だし...。

「絶対にふざけないでよ!??フリじゃないからね!?服は後で洗うのが大変だから常識の範囲に収まる格好ならなんでもいいよ。お姫様相手にやるような畏まった感じでお願いね。定番の手の甲に口付けるのも忘れないでよ。騎士の誓いも聞いてみたいなぁ」
「欲張るねぇ〜。まっ、いいけど」

そろそろ鍋から出さないと焦げるよ?
リンクに指摘されて慌てて具材の形状が壊れかけたスープを器に移した。この鍋便利だけど焦げやすいのが難点かも。ちょっと焦げた香りのするスープにごめんねと食べる前に謝っておくとリンクは胃に入れば同じだからと笑う。さすが健啖家!と頼もしい胸板に抱きつきたいところだが、隠す努力もせず思いっきり肉欲にくらんだ瞳に目が留まった途端、頭の奥底で思い描いた清廉潔白な騎士像が崩れていく音がした。


ちょっと焦げたスープを胃を満たし口直しに作ってくれたアップルパイが頬が溶けそうなくらい絶品で幸せだった。暫く優しい甘さに浸りつつホッと肩の力が抜ける湯加減にうつらうつらと首を振りながら冷たい机に頬を当て食卓でくつろいでいると鼻を膨らませたリンクが「さぁ、夜も深まったところで夫婦の営みはじめるよ!」とだらしのない体勢で微睡む私を抱き抱え向かう場所は柔らかいベッドの上。せっかくだし英傑の服着ようか?と寝巻きを脱ぎ捨て洗ったばかりの英傑の服に袖を通す謎にノリノリなリンク。家と仕事はきっちり分けるタイプじゃなかったのか。まだ穴も塞げてないし、こんなことでまた洗い直すのも勿体ないから寝巻きでいいよと伝えるとえ〜と不満な声を上げガックリと肩を落としていた。嫌がってた割にサービス精神旺盛なのはなんで?
脱いだ寝巻きを着直している間、四肢を投げ出しベッドサイドの穏やかな蝋燭の灯火を見ていたらなんだか頭がぼーっとしてくる。今日はお城にも出かけて何百人分物野菜の皮を無心で剥きいつもより体が重く感じる。
お風呂に入り疲れが一気に思考までのしかかり起き上がることさえ億劫で、眠くなってきたから明日にしない?とトロンっと垂れた眼を擦るなまえだったが、頑固な眠気も吹き飛ぶ「は?」の凄む一言に身震いし仕方なく瞼を持ち上げる。二十数年しか生きていない私と比べ100年間眠っていたとはいえそれでも100年と二十数年生きているリンクって、本当に元気だね...色んな意味で。
気だるい体を起こし頬を叩いて眠気を覚ます。とっても眠たいけれど自分で言った事だし、本人もやる気だからそこそこに付き合ってあげますか。乱れた髪を整えベッドの端に座り直すと「よし、それでは英傑...近衛騎士の方が雰囲気出るよね。近衛騎士リンク。今夜は存分に私に満足させてみなさいな」と右手の甲を差し出した。自分で言っておきながらなんかお姫様ってこれじゃない感が否めない。だってゼルダ姫の真似をしたらリンクは絶対『仕事に差し障るから!』って怒るだろうし。とはいえ何処にこんな厚かましい姫君がいるんだと自分で作った癖の強いキャラに失敗したなぁと差し出した手をひっこめ最初からやり直そうとしたが、文句も言わずに差し出した手を取り膝を折るリンクに私はここから呆れるほど調子に乗ってしまった。
お城で着用していた制服でもその背中に剣を携えていなくとも、散らばった髪を結いベッドの端に腰掛ける私へと恭しく膝を折る姿はまごうことなき高潔な騎士の顔つきで。やっぱり正面から見るとその鋭い眼差しや固く結んだ口元の迫力に押されたほんの少しだけ怖い人にも見える。けれども差し出した手を掬い上げ軽く手の甲に口付けを落とす姿はまさに少女たちが憧れた騎士そのものだった。
結婚して月日もそれなりに経ち、軽いキスに照れる仲でも無いというのに。手の甲に柔らかな感触を残し芯の通った眼差しで見上げてくる騎士様に年甲斐にもなく心臓が跳ねる。危なかった、もしも瞳のハイライトが消えていなかったら完全にこれだけで満足し早々に主導権を譲るところだった。...ところでどういう原理で瞳のハイライトを切り替えているのだろう。騎士になれば皆できるようになるのだろうか...うーん。
場所を問わず緊張感を与える仕事用の顔につい悪戯心が擽られて、口付け一つであっさりと陥落しかけた緩い気持ちを引き締め直し差し出した手を煽るようにヒラヒラと揺らしてみる。これで終わりかしら?と好戦的な視線を向け、ふふんと傲慢な笑みをこぼす。普段のリンクならば安っぽい挑発に全力でのってくるところだが、お仕事用の彼はそうではないらしい。察しにくい表情のまま鬱陶しい絡みに面倒くさいなぁと眉間に皺を寄せることもなければ文句一つ零さず、反抗的な手を取り直すと今度は掌へと唇を寄せた。一回だけじゃ満足しないんだろう?とリンクは血色のいい頬に掴んだ手を擦り寄せふぅと吐息をかける。見せつけるように唇を押し付けてはまだ足りないのか?と反応を伺いながら丹念に指の先まで唇を寄せる色っぽい仕草に見蕩れて、作り上げた傲慢な表情はポロポロと剥がれ落ち軽い目眩を覚える。一言で言うならば視界の暴力。同じものを食べているはずなのにどこからその色気は生み出されているのか。これはお互いの同意の上で成り立っている行為なのに表情の硬さが謎の背徳感を漂わせ、まるで嫌がる騎士に権力を振りかざし無理やり奉仕させている感が否めない。こんなアブノーマルな趣味私にはなかったはずなのに、私の内なる加虐心の種は立派に芽を出しぐんぐんと大きく育っていく。ああ、性癖が歪む...まぁいつもリンクに好き勝手されてるから、これはこれでちょっと悪くないかも...。

「ふふっ。くるしゅうない、くるしゅうないぞ!」

眠気も吹き飛ぶ最高の気分だ。上から見る景色は絶景だと、おもむろに足を組みほれほれと足の指を揺らせばリンクはリップ音がこびりついた手から唇を離し文句言いたげに眉を顰め皺を寄せた。

「俺こんな玉座にふんぞりがえるSっ気気質の女王様を見たの初めてなんだけど」
「こら、勝手に素に戻らない。あと女王様じゃなくて姫様。はい、騎士っぽく最後までやり遂げる」

もう十分満足しただろ?と勝手に見切りをつけ寝巻きに手をかけようとするバッチい手を叩き落とす。まだその時ではない。約束を破るならこのまま寝るからと毛布を手繰り寄せればピクリと耳に下がるピアスが揺れる。よしよし、いい調子。まだ主導権は私の手の中だ。
まだ忠誠の言葉も聞いていないなあ〜とニヤついた口元を指で隠し余すことなくこの状況を楽しもうとするなまえにリンクはやれやれと溜息をつきつつも嫁の願いを断れず背を曲げダラダラと詠唱を始める。やる気の無い態度の割に紡がれる言葉は洗練され、瞼の裏には誠実な騎士が畏まった姿が見える。ほおっと深い息を吐き憧れの騎士の誓いにすっかり聞き惚れていたなまえはリンクの怪しい笑みに気が回らなかった。
揺らしていた足をリンクは声もかけずに鷲掴むと立てた自らの膝に乗せた。今度は何をするんだろうとされるがまま、じーっとリンクの行動を眺めていると突然涼しくなった足元に邪な空気を察しなまえは低い声でリンクを戒めた。それは騎士の誓いに必要なのかしら?臆することなく薄いスカートの裾を腿まで捲り上げ眼前に晒される生足に彼はゴクリと生唾を呑む。徐々に近づいてくる顔面になまえは顔を真っ赤にしてその端正な顔を容赦なく蹴りあげようとするが、スイングする合間に足を掴まれ小さな悲鳴が薄暗い部屋に響く。掴まれてもなお抵抗する足へリンクは至極真面目な顔で赤い舌を覗かせると躊躇いなく踝から膝皿までねっとりと舐め上げる。

「〜〜〜っ!!!!も、ももも、もう、結構です、わ!十分に満足したので素に戻ってくださるかしら!!?」

ここまでは求めていない。焦るなまえを他所に夢中になって足を舐め始めるリンクの奇行をなんとか鎮めようと這い上がってくる頭を躍起になってグイグイと押し返す。やり過ぎだよ!まだ自由な片足の踵で思いっきり頭部へと振り下ろそうとするが、全てお見通しだと足首を掴むと肩へと足を引っ掛け脹脛へと吸い付いてくる。小さな紅い花が一つ二つと咲き乱れ愛でるようにその上を薄く粘り気のある透明の液体がコーティングする。高く持ち上げられた片足が赤く色づくにつれて甘やかな痺れに足は震え生温い吐息が喉を濡らす。恥ずかしそうにフルフルと震えた口元を覆う細い指。皺を重ねながら腿から鼠径部へと丸められた裾とそこに向けられる熱っぽい視線になまえは慌てて捲りあがった裾を下ろし勝手に盛り始めたリンクを睨みつけるのだが、この男、少しも怯む素振りを見せやしない。それどころか足を閉じようと力を入れるなまえの抵抗を嘲笑うかのように、もう片方の足も肩にかけた直後勢いよく体重を前に傾け蒸気した体を押し倒したのだ。

二人分の重みがのしかかりギシリと軋む寝具の音。ベッドサイドに置かれた一つの小さな灯火は豊かな表情に濃い影を落とす。揺れた瞳に映るリンクはいつまでも強ばったままに見えて、ほんの少し不安になる。まるで別人のような面持ちのリンクに押し倒され、なまえは酷く狼狽し安堵を求めて、その感情の失せた表情から自分の知るリンクを探している間もリンクの行動は止まらない。乱された足を脇に抱え直すと無骨な手は押し潰すように腿を撫で上げ、指先に触れた衣服にピクっと上がった片眉をなまえは見逃さなかった。
次は脱がされるんだろうなぁ。楽しい時間の終わりに無駄な抵抗を諦める。大人しく手を上げてまな板の上で座して待っていると撫で上げる指先は衣服を素通りしするりと腰から胸のラインを確かめるように指先でなぞり、濃く色づいた頬に優しく手を添えるその視線は鋭くまるで他人みたい。呼びかけても返事は返ってこない。まるで声を失ったみたいに黙りこくり、浅い息遣いを繰り返しながらもリンクは露出した首筋に唇を寄せる。

「リンク、なんで黙ったままなの??いつもは少し小煩いくらい口数も多いのに。もう騎士ごっこは終わりでいいから、いつもみたいに触っても私怒らないよ?」

小鳥が啄むような優しいキスの雨。柔らかい髪が肌を滑り擽ったさに笑いを零しながら肩をすぼめ身をよじるなまえだったが、やはりいつもより他人行儀な触り方にハッと我に返ると唇を塞ぐようにうっすらと汗ばんだ頬に手を添えた。未だ消えたままのハイライト。口数が少ないと言うよりも零れる吐息を除けば限りなく無口で、何を考えているか分からない表情にもう一度リンクと呼びかける。「いつものリンクが好きだよ」と遠回しに自分の気持ちを伝えても表情は硬く色が欠けたまま。まさか私と出会った頃の記憶は消えてしまったのかと途方もない不安を感じていると「どうか私にも姫様の寵愛を」と濡れた目尻に強く吸い付いた彼に揺れる気持ちが不思議と落ち着きを取り戻していく。このちょっと雑でやきもち焼きなキスは間違いなく私の知っているリンクのもの...ということは。
あの言い様からして面倒臭いことになってしまったようだ。すこーし調子に乗りすぎた結果、誤ってリンクの意地悪な一面を表に引っ張り上げてしまったらしく、私の知らない声音で私の名前を口で遊ぶ私の知らない顔をしたリンクに、私は不安のあまり後退りする。やっぱり宿屋予約しておくんだった。嫌な汗が背筋を伝い平穏に夜を過ごしましょうよと説得を図るがお互いベッドの中心に上がり無表情の割に雄弁と欲を滲ませた瞳に声が引き攣る。「私痛いのも怖いのも無理ですから」と胸の前でバッテンを作り別人のようなリンクを相手にこの先に待つ甘い展開を拒絶するが、「全て私にお任せ下さい」と指を丸めた手を引き手の甲に口付けを落とした騎士様は騎士に似合わぬ強引なやり口であわあわと急展開に戸惑う唇を優しく塞いだ。
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