不器用者しかいない
※こちらではコハクに固定させて頂きます。
ーー私はきっと誰よりも幸せ者。
最近、親友(だと私は思ってる)である玲綺ちゃんの様子が何処となくおかしい。余所余所しい、というか…避けられている気がする。今日も一緒に昼餉を食べようとしたら逃げられてしまったし。…私、玲綺ちゃんに嫌われるようなことをしてしまったんだろうか。うう、無理…頑張って仲良くなったのになあ…
「ーーおい」
「!あ、呂布様!如何されましたか?」
「…誰かに何か言われたのか」
「へ?」
「…気付いてないのか?涙」
「え、…あ…」
いつの間にか泣いていたらしい。涙を少し強引に拭い、目にゴミが入っただけだと告げるものの、それが嘘だと簡単に分かったらしく、ジッと見つめられる。あつが、圧が凄い…!玲綺ちゃんのお父様である呂布様だからか、たまに玲綺ちゃんに似ている目付きをすることがあって…もしかしたら嫌われたかも知れない、と再び泣いてしまった。ギョッとさせてしまった呂布様ごめんなさい…
「ーー玲綺がコハクを避けている?」
「…はい、最近ずっと会話してなくて…見掛けても急いでるからって…」
「…成程。そこまで俺に似なくても良かったのだがな…」
「呂布様?」
「付いて来い、コハク」
「へ?いや、これから鍛錬の約束が…」
「知らん、来い」
「わ、分かりました…!」
流石に長である呂布様の指示に抗うことは出来ないなあ…ごめんね、張遼様…!埋め合わせはいつか必ずするんで…!どんどん歩いていく呂布様から逸れないように、と必死で足を進める。歩幅が違い過ぎるからなかなか追い付けない…一歩が大き過ぎるよ、呂布様ぁ…
ひいひい言いながらも置いていかれないように頑張って歩いていけば、それに気付いたのか面倒だったのかは定かではないけれど、呂布様によって小脇に抱えられた。地面が、地面が遠い…!
「…軽いな、飯はちゃんと食べているか?」
「残さず食べてますよ!」
「…ふむ。なら量が足りないのか鍛錬が合ってないのか…」
「…呂布様、何だかお父様みたいですね」
「ーー…俺は元からそのつもりだが?玲綺が姉だろうな、お前は落ち着きが足りん」
「…えへへ、拾われた恩は返したいですからね!」
「ふん。…親より先に逝くなよ」
「!勿論です!」
私の言葉に、呂布様は満足そうに笑ってからどんどん歩いて行く。これは…お前達と一緒に食いたくないって駄々を捏ねた呂布様が手に入れた広場に向かってるのかな?何だか可愛いく飾り付けされてる…うーん?何か特別な日が近いうちにあったかな…?うんうん悩んでいれば呂布様から溜息を付かれたけど、分からないから仕方ないのでは…?広間の中心では何やら紙を持って周りの人に指示を出してる陳宮様と、簡易厨房で料理をしている玲綺ちゃんと貂蝉様の姿が見える。周りの人が私を見てめっちゃ青ざめてるんだけど、何故に…?え、嫌われてるの…?そのうちの1人が陳宮様に耳打ちして驚いたような顔をした陳宮様が慌てて近付いて来た。
「呂布殿!!何故コハク殿を連れて来たのですか!これでは時間稼ぎを頼んだ張遼殿が待ちぼうけではありませんか!」
「五月蠅い」
「五月蝿くありません!!」
「ふん。コハク、何の準備か分かるか?」
「…分かりません……追い出すならこんなことしないで下さいよぅ…」
「待て、何故そうなった」
「だってぇ…皆私を見て気まずそうじゃないですか…!嫌われたぁ…!!」
「え!?いやいや、嫌いな訳ないではありませんか!呂布殿、これは何が起きているのです!?」
「…陳宮、皆を今すぐ呼べ。コハク、それはないから安心しろ」
「…うぅ…」
何で、どうして、そんな言葉だけが頭の中をぐるぐる回る。自分の手をぎゅーっと握れば、呂布様によって力を抜けさせられた上に、玉座に腰を降ろした呂布様の膝の上に座らせられた。えっ、何で…?困惑で思わず涙が消えれば、満足そうな呂布様に撫でられた。えーっと?一体何が起きているの…?
「ーーコハク!?」
「…玲綺ちゃん…?」
「聞け、コハク。今日は何日だ?」
「えっ、…3月、31日ですけど…?」
「そうだな。何の日だ?」
「…何の……何の…??」
「…嘘でしょう?貴女、自分の誕生日忘れてるんですか!?」
「陳宮殿」
「いやいやいや、これは仕方なくないですか?我々に嫌われたんだと泣いてたんですよ!誕生日だって忘れてたのでしたら我々が急に避けたように思いますよ!違いますか、張遼殿!」
「む…それは確かにそうかも知れん…コハク殿、我々は貴女が嫌いな訳ではありません。寧ろ、その逆です」
「…逆…?」
「貴女が大好きなんですよ、コハク様。大好きな貴女を喜ばせたくて、色々用意してたんです」
「…まさかそれがお前を苦しめるとは思ってはいなかったんだ。…私から提案したし、気付かれないようにしたいと言ったのも私だ。…ごめん、コハク。お前を泣かせたい訳じゃなかった…喜ばせたかっただけなのに…ごめん」
「…玲綺ちゃん、本当?嫌いじゃ、ない?」
「当たり前だ!私はコハクが父上の次に大好きだよ」
「…私は玲綺ちゃんが誰よりも好きだよ」
「知ってる」
私の言葉に、玲綺ちゃんは優しく笑いながら、私の頭をポンポンと優しく撫でる。…嫌われてなかったんだ、良かった…安堵の息を付けば、何を考えていたのかが分かったのか呂布様によってグイッと顎を持ち上げられる。隣に居る玲綺ちゃんと後ろに居た陳宮様と張遼様が戸惑っている声が聞こえるけれど、呂布様によって視界を固定されている私にはどうしようも出来ない。困惑していれば、ふわりと甘い香りが鼻を掠める。この香りはーー…
「貂蝉、様?」
「ふふ、奉先様。黙っていては分かりませんよ。コハク様が鈍いのは今分りましたからね」
「…そうだな。コハク、お前は俺が拾った。それは覚えているな?」
「え、はい。それは勿論です。忘れられる筈がありません」
「ふん。…あの時から、お前は俺の所有物だ。俺の所有物に手を出す輩はこの陣営には居ない」
「…はい…っ」
「コハクを嫌いになる輩は俺が串刺しにしてやろう。…それでもう泣かないか?」
「…ぐす…泣きません!」
「良し。…ああ、それとーー誕生日おめでとう、コハク」
「父上!!それは私が最初に言いたかったのに…!〜〜、誕生日おめでとう、コハク!」
「色々策が台無しですが…まあ、喜ばせたかったコハク殿を泣かしてしまった時点で大失敗でしたね…誕生日おめでとうございます、コハク殿」
「コハク殿はこの陣営の太陽みたいな存在ですからな。安心して笑っていて頂きたいものです。誕生日おめでとう、コハク殿」
「玲綺様がコハク様の為に一生懸命だったの、分かってあげてくださいませ。誕生日おめでとうございます、コハク様」
「〜〜っ、あり、有り難うございます…!」
最初は悲しいし苦しかったけれど、今日という日のことを一生忘れることはないだろう。時間を前倒しにして私の誕生日会を開催し、玲綺ちゃんと貂蝉様の手料理を食べる。泣きたくなるほど美味しいし、贈り物も嬉しかった。両親を董卓に殺され、なし崩しに連れ去られて危うく酒池肉林に加えられそうな時に救われたあの日くらい、嬉しくて優しくて暖かい日。
(私、凄く幸せだよ)
だから安心して、見守っていてね。不器用だけど心は暖かな人達しか居ないこの陣営に、入れて良かった。改めて心からそう思える。これからもずっと一緒に居たいなあ…その為にも鍛錬を頑張らなきゃ!そう思って張遼様に鍛錬を申し込んだけど、呂布様が軽過ぎるからまずは肉を付けろと言われてしまった。でも、確かに軍師である陳宮様に軽々持ち上げられたのはなかなかにまずいかも…私よりも顔を真っ青にしている皆に手当たり次第に肉を押しつけられながら、私は笑いながら空を仰いだーー…
end
愛情は誰よりも深い
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