いっぱい食べる君が好き
私の同期は、めちゃくちゃ凄い。中身はあれだけど、見た目も良ければ術式だってチート並みの五条と、同じく中身はあれだけど見た目も良いし意地悪だけど優しいところもある夏油と、ぶっきらぼうなとこもあるけど優しいし、呪力コントロールが難しくてなかなか使える人が少ないと言われている反転術式を扱える硝子。この3人と同期なの、めちゃくちゃしんどい……私の術式は、ありとあらゆる水を自在に使いこなせることだったりする。まあ、つまりは水さえあれば何でも出来る、みたいな。それなりに使えるとは思うけど、まだ使いこなせていないんだよね。
「…早く、使いこなせるようになりたいのに」
さっきも任務で危うく溺れさせちゃうところだった。五条は反転術式並みにコントロールが難しそうとか言ってたっけ……やっぱり硝子に色々聞いてみる方が良いのかなあ、なんて思いながらスーパーで食材を見繕う。学校に食堂はあるんだけど、視えない人だった両親に不気味がられて毒を盛られてからどうしても他人の料理を食べられなくなってしまった。あ、キャベツ安いな…キャベツステーキにしたら美味しそう。味付けはバター醤油かな。…考えただけでお腹空いて来た。とりあえず1週間分の食材を買い込む。上の人遣いが荒いせいでお金は沢山あるからね。両手一杯に袋を持ちながら学校に向かって行けば、任務に出ていた筈の同期の後ろ姿が見えて私は口を開く。
「夏油、お疲れ様」
「!ああ、なまえか。有り難う。…凄い荷物だね?」
「1週間分だからね!」
「成程ね。貸して、片方持つよ」
「え、良いよ良いよ。任務帰りだから疲れてるでしょ?」
「素直に甘えてくれて良いんだよ。それに、これくらい全然疲れていないさ」
「…そーお?なら、お願いしようかな」
「うん。…なまえは食堂に一回も来ないなあって思ったら自炊してたんだね」
「うん。…人の料理、食べられなくて。カフェとか誘われても断わってばかりでごめんね」
「良いんだよ。…理由とか、聞いても大丈夫かい?」
「親に毒盛られてたの。少量ずつ、ね」
「…視える、から?」
「うん」
私の言葉に夏油は悲しそうに顔を歪める。たまに人を猿呼ばわりしてたりするけど、夏油は優しいと思っている。五条はクズだけど、家が家だから仕方ない。闇深いよね、五条家。暗い雰囲気を打ち切る為に任務の話を振ってみる。頭が良い夏油はすぐに察して教えてくれた。祓うのそこまで大変じゃない、ってすんなり言えるのかっこいいよなあ…私は術式がまだコントロール出来ないから大変だ。自分が敵、って感じかなあ。…へえ?美味しいお蕎麦屋さんがあったんだ。十割蕎麦!?良いなあ、私も食べたい…
そんな話をしていたら、きゅるるるとお腹の音が聞こえた。私ではない、ということは……身長差がかなりあるから、見上げるような形で夏油を見てみたら、何とも可愛い顔をしている。…あれ、でも夏油の術式って…
「…夏油の術式は呪霊を取り込むことだよね?やっぱりあれだとお腹膨れないんだ」
「あー……あれね、めちゃくちゃ不味いんだよ」
「…まあ、呪霊だもんね。美味しい訳ないか。どんな味なの?」
「吐瀉物を処理した雑巾みたいな味、かな」
「うっっわ、…めちゃくちゃ頑張ってるんだねえ」
「…そうだよ、私頑張ってるんだ。なのに悟のやつ、ガンガン取り込めって言って来るんだ…本当、他人事だからって…」
「…お疲れ様。口直しにはなると思うし、良かったら夕飯作ってあげようか?」
「え!良いのかい?」
「良いよー。ついでだし!ご飯炊くくらいは手伝って貰うけどね?」
「それぐらいお安い御用だよ!楽しみだなあ、なまえの料理」
「普通だからね?期待しないでよ??」
私の言葉を気にすることなく、足取り軽く女子寮の方に向かって行く夏油の後ろ姿に溜息を付いてから追い掛ける。ガタイいいし、めちゃくちゃ食べそうだよなあ…1週間分持たないかも知れない。任務ない日あったかな…それにしても、吐瀉物を処理した雑巾みたいな味ねえ、最悪なのを沢山食べて今の強い夏油が居るのか…何だか感慨深い。お薬飲めたねみたいな、味変出来るようなやつはないかなあ、ちょっとくらい美味しくする方法はないのかな…調べ物は得意だし、こっそり探してみよう。今はお腹を満たしてあげることを考えないと、だね!よし、頑張るぞ!量は多すぎかな、ってくらいを目指そうかな。余れば良いけどお腹空いてそうだからなあ…まあ、何とかなるか。
「…凄い…!!あんな短時間でこんなに作れるなまえは凄いね!」
「慣れかなー。嫌いな味付けとかあれば無理して食べなくて良いからね!ご飯も良い感じに炊けてるね」
「沢山食べるから…ご飯炊ければお握りくらい作れるだろって。私専用の炊飯器があるよ」
「めちゃくちゃ食べるんだね?まあ、口に合えばだけど好きなだけ食べて」
「呪霊より不味くなければ基本的に私は何でも食べれるよ」
「そこまで不味くないと思いたいなあ」
人に食べて貰ったことない……夏油が最初か、なんかドキドキして来たな。肝心の夏油は私の反応を気にすることなく、キラキラと目を輝かせながら沢山の料理を見つめている。何だか可愛いな…召し上がれ、と声を掛けたら頂きます!と手を合わせてからお味噌汁に手を伸ばす。シンプルにわかめと油揚げと豆腐の味噌汁にしたけど、どうやらお気に召したようだ。幸せそうに頬を綻ばせる夏油に釣られて私も笑みが零れる。どんどんテーブルの上の沢山の料理が夏油に吸い込まれていく。めちゃくちゃ食べるね?ブラックホールかな??ちびちびと箸を進めながらも、視線は夏油から外せそうにない。気持ち良いくらいに減ってくなあ…暫く眺めていれば、満足したのか幸せそうな顔をしながら手を合わせた夏油が口を開く。
「ご馳走様!とても美味しかったよ、なまえ」
「お粗末様でした。お口に合ったようで何よりだよ」
「こんなに美味しい手料理久し振りに食べたよ!…あっ」
「うん?」
「す、すまない。私ばかり食べてしまったね、ちゃんとなまえも食べれたかい?少しはセーブしようと思っていたんだが…止められなくて…」
「かわいいな??ふふ、大丈夫だよ夏油。私はいつでも食べれるから。夏油が満足出来たのなら良かった」
「…有り難う、なまえ。とても幸せな時間だったよ」
「それは良かった!あ、夏油ってまだ余裕ある?」
「うん?あるけれど…」
「昨日作ったシャーベットがあるんだけど、デザートいかが?」
「!!食べる!!」
「よしきた!」
かわいい!!!ぱああっと明るくさせながらの全力の返事に思わず頬が緩む。本当にかわいい…幼女かな?夏油にお皿とかを持って行って貰ってる間に私はデザートの準備をする。うん、良い感じに凍ってるな。綺麗で衝動買いした器を2つ用意して、凍ってるシャーベットをミキサーで砕いていく。うーん、我ながら美味しそうだ。色も綺麗に出来てる。気持ち夏油の方に多めに盛り付けてから持っていけば、キラキラと瞳を輝かせてそわそわしている夏油に思わず笑みが零れる。甘いもの好きな五条やお酒とかが好きな硝子はよく笑ってくれるけど、ここまで笑う夏油は初めて見たなあ。
「はい、召し上がれ」
「頂きます!……ん、美味い!さっぱりしていてとても良いね!」
「気に入って貰えたようで良かった!少しはお口直しになった?」
「勿論!こんなに美味しい料理食べれて私は幸せ者だな。悟や硝子にはまだ食べさせてないんだろう?」
「うん?そうだね、夏油が初めてだよ」
「ふふ、暫くはこのまま私が独占したいな。ねえ、お金は出すからまた食べに来ても良いかい?」
「勿論構わないよ。あ、連絡は入れてね!」
「私、そこまで非常識ではないつもりなんだけどな」
「ふは、ごめんって」
ちょっぴり拗ねたような表情を見せる夏油に笑いながら謝罪すれば、彼は少しばかり不満そうな表情を浮かべる。気持ちが感じられない、と言わんばかりの瞳に見つめられますます笑ってしまう。こんなに可愛い人だったのか、夏油って。ギャップ萌えってやつかな、今までと見る目が違くなりそうだ。美味しそうにもぐもぐとシャーベットを口に運ぶ夏油を見ながら、私の中に友人に抱く気持ちとは違う気持ちが芽生え始めているのを感じる。…うーん、私ってこんなにちょろかったのか。いやまあ、確かに可愛いかったけども。美味しそうにご飯食べる顔に惚れるって……うーん、まあ、伝えなければ良いか。この世界はいつ死ぬか分からないもんね。
「なまえ?せっかくのシャーベットが溶けてしまうよ」
「え、あ、危ない危ない。ありがと、夏油」
「…何か気になることでもあったのかい?」
「ん?んー、夏油は本当に美味しそうに食べてくれるな、と思って」
「それはそうだろう、なまえの料理はとても美味しいからね!毎日食べたいくらいだ」
「ふは、熱烈」
「…胃袋、掴まれてしまったかも知れないからね」
「あら、私結構凄いことしちゃった?」
「そうだとも。食堂の料理や外食で物足りなくなったらどうしてくれるんだい?」
「その時は食材持って来てくれれば前向きに検討してあげるよ」
「…君の料理が食べれるならそれも良いと思ってしまうな」
「ふふ、新鮮なのお願いね?」
「もちろんだよ」
私の言葉に楽しそうな顔をしながら頷く夏油に、やっぱり好きになってしまったのだと実感する。あまり顔に出ないタイプで良かった…!最初は本当に親切心、というかせめて美味しいもので1日を締めて欲しかっただけなんだけど、下心が出て来ちゃいそうだな。まあ、うん、五条や硝子に気付かれないようにすれば良いかな。もちろん、夏油にも気付かれないようにしよう。この想いは必要じゃない。私は夏油にご飯を提供するだけの同級生。それで良いんだ。少しばかり胸が痛んだ気がするけど、私はそれに気付かないふりをしながら夏油に向かって笑顔を向ける。
ーー…ああ、呪術師じゃなければ、良かったのになあ…
END.
prev|next
戻る